ああ、ビーチサイドの超高級ホテルでの閉じられた世界。オーシャンビュー、プールサイドのラウンジ、そして臨時の金融トレーディングフロア……。
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、アメリカの大手ヘッジファンド運営会社シタデルの証券部門、シタデル・セキュリティーズが株式トレーディング部隊の隔離を決めた。シタデル創業者で億万長者のケネス・グリフィンがトレーダーの退避先として確保したのはフロリダでもとりわけ贅沢な一角。すばり、パームビーチのフォーシーズンズホテルだ。
ホテルも「個人の住宅」として扱っている
ニューヨークとシカゴのトレーダーのためにシタデル・セキュリティーズがホテルに予約を入れたのは、パームビーチ郡がホテルの新規予約を停止する3月26日直前。ホテルでのトレーディング業務は3月30日に始まった。その数日後、フロリダ州のロン・デサンティス知事は州全域に自宅待機命令を出した。
シタデル・セキュリティーズはパームビーチ警察から非番の警官を雇い、ホテルの警備にあたらせている。同社とホテルの従業員以外は誰も中に入れない。グリフィン氏は多額の政治献金を行っていることで知られ、共和党所属のデサンティス知事にとってもトップクラスの後援者となっている。グリフィンはホテル近くに自身の不動産を所有しており、フォーシーズンズには滞在していない。
州政府や地元自治体はコロナの感染拡大を防ぐために「社会的距離」を保つほか、生活に不可欠な事業活動以外は停止するよう求めている。しかしパームビーチ当局によれば、フォーシーズンズで行われている異例の対応は、こうした公衆衛生規則に反するものではないという。シタデル・セキュリティーズが唯一の利用者だから、という理屈だ。
パームビーチは同ホテルを個人の住宅と同様に扱っている、とパームビーチの広報担当者、マイケル・オグロドニクは語る。個人の住宅である以上、敷地内で仕事をすることに問題はない。プールで泳ぐことだって可能だ。「私たちに言わせれば、(シタデール・セキュリティーズの従業員は)泡(バブル)の中にこもっているだけ」。
従業員に対し4月1日に送ったメモの中で、シタデル・セキュリティーズはパームビーチの拠点を1週間足らずでゼロから立ち上げたと述べている。最大で50人の受け入れ能力があるという。