この薬剤の問題は動物実験で「催奇形性」が認められたことだ。催奇形性とは妊娠中のある時期に使用すると胎児に奇形が生じるおそれがあるということだ。日本での適応は「他の抗インフルエンザ薬が無効又は効果不十分なもの」となり、日本市場では流通していない。政府が新型インフルエンザの流行に備え、200万人分を備蓄している。
今回の2つの臨床試験では、催奇形性の問題を除いては懸念された副作用はなく、厳しい条件付きにはなるかもしれないが今後、世界中でファビピラビル(アビガン)が処方される可能性が出てきている。
この結果が発表された3月18日には、東証1部における富士フイルムの株価は前日の4538円から5238円に上昇し、ストップ高となった。
ところが、翌日には4794円に戻った。これは2019年にファビピラビル(アビガン)の物質特許が失効し、中国国内でファビピラビル(アビガン)を販売する浙江海正薬業股分とのライセンス契約も終了しているからだ。ファビピラビル(アビガン)はすでに中国国内で承認されているが、富士フイルムには一時金やロイヤルティは入らない。
では、日本の状況はどうなっているだろう。ファビピラビル(アビガン)はすでに国内で承認されていることは前述した。厚生労働省が新型コロナウイルス感染に対して緊急で適応を拡大すれば処方は可能になる。
ところが、厚労省にはその気はなさそうだ。安倍首相は3月28日の記者会見で、薬事承認の取得を目的とした治験を開始した方針を明らかにした。安倍総理は「今後、希望する国々と協力しながら臨床研究を拡大するとともに、薬の増産をスタートする」と語った。
これは藤田医科大学が中心となって進めている臨床研究を念頭においたものだろう。同大学は軽症から中等症の患者を対象とした観察研究を3月2日から開始したところだ。8月に終了予定で、3億5000万円の予算がついている。
厚労省は慎重、急がれる対応と決断
この研究はコントロール群を伴わない観察研究だ。完遂したとしても臨床研究としての意義は低い。日本はPCR検査を絞ってきたと指摘されている。3月29日現在、国内で確認されたのはクルーズ船などを除き1846人だ。これでは症例不足で数百人規模の臨床試験の遂行は難しい。3月29日現在の中国の感染者数は8万2356人となっている。
日本で中国レベルの臨床試験を遂行するのは、おそらく無理だろう。中国で複数の臨床試験を終え、結果が公開されている点をどのように考えるか。橋本岳・厚生労働副大臣は、中国での結果について「(日本での)研究の結果がどうなるのか、予断を与えることを言うことも、我々は控えるべきだ」(3月19日・衆院農林水産委員会での答弁)と慎重な姿勢だ。
とはいえ、日本はこの新型ウイルスに対抗できる可能性のあるアビガンを200万人分も備蓄している。有効性や安全性についての懸念は当然わかり、クリアする材料は欲しいだろうが、日本には可及的速やかな一連の対応と決断が迫られている。
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