福島のJヴィレッジ、「除染せずに返還」の真相 東電の会見で新事実、国のルールに相違

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東電が除染の要否の目安とした毎時2.5マイクロシーベルトは、厚生労働省の規則で定められた「特定線量下業務」の基準に相当する。厚労省のガイドラインによれば、2.5マイクロシーベルトを超える場合、そのエリア内で作業をする労働者について、除染作業に携わる労働者と同様の被曝線量限度の厳格な管理や、個人線量計の装備などが義務づけられている。

東電の事故収束作業の拠点として使用されていた2013年当時のJヴィレッジ。地面に鉄板が敷かれている(撮影:梅谷秀司)

すなわち、特定線量下業務においては、労働者の健康を守るために特別な配慮が求められている。東電は、この「2.5マイクロシーベルト」という数値を、除染をする必要があるか否かの“独自基準”として用いたようだ。

一方、国のルールに基づいた除染の手続きはまったく異なる。例えば福島市や郡山市などの汚染状況重点調査地域では、国の放射性物質汚染対処特別措置法に基づき、毎時0.23マイクロシーベルト以上の放射線量が計測された学校のグラウンドや住宅などを対象に、大規模な表土の剥ぎ取りなどの除染が実施されてきた。

除染特別地域の楢葉町では、学校などについて、再開の前に校庭の空間線量を毎時1マイクロシーベルト未満とすることが、環境省による除染実施計画で明記されている。いずれも東電の“独自基準”よりはるかに厳格だ。

なお、Jヴィレッジについては、いずれの測定地点でも空間線量が毎時2.5マイクロシーベルトを下回っていたことを理由に、除染特措法に基づいた除染作業が行われないまま引き渡された。そして、現在は青少年によるサッカーの練習に活用されており、コロナウイルスの感染拡大に伴って延期となったものの、3月26日には東京オリンピックの聖火リレーのスタート地点に予定されていた。

グリーンピースの調査が発端

Jヴィレッジをめぐる一連の問題が判明する発端は、国際環境NGOグリーンピースによるJヴィレッジ周辺での放射線調査にさかのぼる。その後、東電の記者会見での質疑を通じて、Jヴィレッジ全体に関する問題が明らかになった。

グリーンピースは2019年10月26日にJヴィレッジに隣接した楢葉町の町営駐車場脇の空間線量を測定。地表1メートルの高さで毎時1.7マイクロシーベルトという高い放射線量を計測した。原発事故前の一般的な空間線量と比べると、40倍以上の高さだ。

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