福島のJヴィレッジ、「除染せずに返還」の真相 東電の会見で新事実、国のルールに相違

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Jヴィレッジ返還に際して除染を実施することについては、「Jヴィレッジ復興プロジェクト委員会」がまとめた「『新生Jヴィレッジ』復興・再整備計画」で明記されている。同委員会には福島県や日本サッカー協会、地元の楢葉町、広野町などとともに、東電も委員を出していた。

にもかかわらず、なぜ、東電は国によって定められたルールどおりの除染を実施しなかったのか。東電のような日常的に放射性物質を取り扱っている専門家集団が、国の定めた除染のルールを知らなかったとは想像できない。

3月23日の定例会見で東電の八木秀樹広報担当は、Jヴィレッジに関して国のルールに基づいた除染が行われていなかった理由について、「すぐには答えられない」と述べた。

その後の3月26日、東電は東洋経済に下記のような回答をした。

「会見でご質問いただいた『2.5マイクロシーベルト』の位置づけですが、Jヴィレッジの営業再開のため、当社が『原状回復工事』を行うに当たり、作業員の被ばく管理の目的で、作業可能かどうかを確認するための基準として測定し、それ以下であることを確認したうえで、工事を実施したものです。そのため、原状回復工事の際は線量測定の結果の記録は実施していなかったものの、(編集部注:Jヴィレッジ隣接駐車場脇については)線量低減工事(昨年12~今年1月実施)後の測定により、おおむね毎時0.23マイクロシーベルト以下となっていることを確認しております(開示資料P2、3参照)。また、Jヴィレッジ殿と相談のうえ、Jヴィレッジ全体をモニタリングし、線量が低いことも確認しました(開示資料P5)」

ここからはあくまでも推測の域を出ないが、資料P4で原状復旧工事について、「この工事は一般的な除染作業と同様の手順であり、除染と同等の線量低減効果がある」と記載されていることから、国のルールに基づかない方法により、除染作業の場合に必要となる労働者の放射線防護などのコストの削減を狙ったのかもしれない。

東電は納得いく説明を

こうした一連の経緯について、Jヴィレッジを所管する福島県エネルギー課の内田基博主幹は、「2.5マイクロシーベルトうんぬんという東電の線引きの事実はまったく知らなかった。Jヴィレッジについては表土の剥ぎ取りなど実質的な除染は実施されており、空間線量も十分に下がっている。全体の除染がまったく行われていないかのような報道は遺憾だ」と語った。

そのうえで、「中途半端な説明では、大変な風評被害につながりかねない。東電にはきちんと説明してくれと言いたい」と苦言を呈した。ただ、実質的な除染がされているというのであれば、除去した汚染土はどこに行ったのか。結果的に空間線量が下がっていれば、それでよしというものでもない。

Jヴィレッジは安倍晋三首相も、「福島復興のシンボル」に位置づけてきた。「2020年の聖火が走り出す、そのスタート地点は、福島のJヴィレッジです。かつて原発事故対応の拠点となったその場所は、今、わが国最大のサッカーの聖地に生まれ変わり、子どもたちの笑顔であふれています」(2020年1月20日の安倍晋三首相による施政方針演説)。

世界からも注目されている施設であるだけに、東電には納得のいく説明が求められている。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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