さらに、事態をより複雑化させているのが、ロヒンギャ難民の存在だ。実はマレーシアには、ミャンマーから海を越えてボートで不法に入国するロヒンギャ難民たちが後を絶たない。
マレーシア政府はロヒンギャ難民の入国を法的に認めているわけではないものの、同じイスラム教徒同士であるがゆえ、人道的な観点からUNHCRの庇護下で暮らす状態は長らく続いてきた。法的には「不法滞在」の状態であるわけだが、彼らはクアラルンプールをはじめ、マレーシア各地で小さなコミュニティーを形成し、アパートで息を潜めるようにして暮らしている。
当局は、そのマレーシア在住のロヒンギャ難民ら2000人余りが、このモスクでの集団礼拝に参加していたとして追跡調査を目下行っているというのだ。彼らは見つかると不法滞在や不法就労などの疑いで逮捕されるのではという不安から、検査になかなか現れないのが実情だ。
現地のロヒンギャコミュニティーの代表は「逮捕されるなどと恐れずに検査に向かってほしい」などとSNSを通じて呼びかけているほか、態度を明らかにしてこなかった政府側も、今回の新型コロナウイルスをめぐる緊急事態が最優先事項であるため、検査に訪れても不法滞在などについては問わないと明言し始めた。国家のみならず、世界全体に及ぶ緊急かつ非常事態を鑑み、極めて迅速な判断が下された形だ。
当局も正確な実態をつかめていない
しかし、マレーシアのロヒンギャコミュニティーの代表を務める男性は、「実際に礼拝に参加していたロヒンギャ難民は2000人などではない、500~600人程度にすぎないと思う」などと主張。どっちの言い分を信じるかだが、当局側も正確な実態をつかめていないことを意味するのかもしれない。
というのも、集会の主催者側も当初は1万6000人とされていた礼拝の参加者人数が実は1万2500人であるなどと訂正を求めるなどしており、事態は混乱しているからだ。昨日(3月23日)、保健省はモスク礼拝の“参加者全員検査”を宣言するなど、緊急性のある事案であることを訴えており、事態の早急な収束に躍起だ。
その後、イスラム教団体「ジャマアト・タブリーグ」はインドネシアでも同様の大規模集会を計画していたものの、主催者側の判断によりキャンセルされた。とはいえ、集会中止の判断は開催直前に下されため、すでにマレーシアやシンガポール、サウジアラビアなど9カ国から400人以上の信者がインドネシアに渡航していたことも確認されている。
クアラルンプール市内に住むイスラム教徒の男性は、自宅で静かに祈りを捧げながらこうつぶやいた。
「アッラー(イスラム教の神)は、非常事態などにはモスクに行かずそれぞれの家で祈りを捧げることにも寛容である。自己満足な精神でウイルスを結果的に広めてしまうような行為はイスラムの教えに背いている」
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