「100日後に死ぬワニ」最終回が猛批判された訳 今後「SNSによる作家活動」難しくなる危険も

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今回、作者の言葉を借りるとすれば「熱量に引かれて」集まった関係者は、その熱量のピークを「100日目」に持ってくるために、そして、そこにあらゆる告知を集中させるために、相当頑張ってきたはずだ。それは「100日目に間に合わせた」と作者が語っていたことからも推察できる。

もちろん、熱量が冷めないうちに、次なる展開を打ち出していくのは当然のことだ。100日かけて熱量を高めたとしても、それは最終回から10日ともたずに冷めてしまうのは、容易に想像出来る。それだけ人の心は熱しやすく冷めやすい。熱が冷めてから物販やメディアミックスを打ち出しても「今さら」と言われてしまう可能性は高い。

そういう点で、最終回終了直後、矢継ぎ早の告知に至ったのもうなずける。だが、作品のテーマを考えた際に、その“余韻”として残すべき時間、つまり読者が、そのテーマを自分なりに受け止めるために必要だった時間の感覚を、少しだけ見誤ってしまったのかもしれない。

制作側と読者側との「決定的なズレ」

それは、作品そのものを構成する、その中心となる文脈に「死」、さらには、そこから導き出される「感動」というものが含まれていたからだと考えられる。

仮に『ロミオとジュリエット』の舞台で、二人が自らの命を絶ち、悲劇が幕を閉じた直後、カーテンコールを待たずして劇場が明るくなり、突然監督が舞台に現れ、この舞台を収録したDVDの宣伝をし始めたとしたら――。それに似たような感覚を、あの矢継ぎ早の告知は与えてしまったと言えるだろう。

ワニは、そのタイトル通り100日目で死んだが、ワニに対して愛着を持ち、感情移入をした読者にとって、ワニは100日目の時点では、まだ死んでいなかったのだ。

次ページ『100日後に死ぬワニ』が作ってしまった悪例
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