地下鉄サリン25年、オウム後継団体が蓄財の謎 主流派アレフの資産は13億円、賠償は停滞…

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こうした事態に、オウム事件の被害者、遺族を支援する「オウム真理教犯罪被害者支援機構」では、2018年2月に、アレフに賠償金の支払いを求めて東京地方裁判所に提訴した。オウム真理教は1996年に破産しているが、破産管財人は教団の資産を売却するなどして債権を届け出た被害者や遺族に約15億円を配当し、残る約22億円の債権を2009年に機構に譲渡している。

2019年4月、東京地裁は請求通り約10億2900万円の支払いを命じた。ところが、「破産管財人から機構への債権譲渡は債務者の承諾を得ておらず、無効だ」などと主張していたアレフは、これを不服として控訴。今年1月に、東京高裁は1審判決を支持して、支払いを命じている。それでもアレフは不服として、最高裁に上告している。

13億円もの資産からすれば、現実的に支払えないものではないのだが、それを拒む理由が理解できない。

地下鉄サリン事件で重い脳障害が残り、全身麻痺で寝たきりになっていた被害女性(56)が、この3月10日に亡くなっている。弁済が滞ることで、救済の機会が奪われる被害者、遺族も増えていく。

後継団体への監視の目を緩めてはいけない

オウム真理教が独自にサリンを研究、生成できたのも、富士山の麓に「サティアン」と呼ばれる教団施設を建設し、研究設備と薬品を買い集めるだけの潤沢な資金があったからだ。バブル経済の後押しで教団組織が大きくなった背景もある。

そこに「ポア」と呼ばれる相手を転生させることに伴う、殺人を肯定する教義が説かれて、25年前の同時多発テロは実行された。その麻原が、いまも祭壇に飾られ、信者たちの信仰の対象となっている。

アレフとひかりの輪は2015年1月に、団体規制法による観察処分の取り消しを求めて国を提訴している。2017年9月、東京地方裁判所はアレフについては認めなかったものの、ひかりの輪については決定を取り消す判決を言い渡した。国はすぐさま控訴し、2018年2月に1審判決が取り消されている。今年3月11日には、ひかりの輪の上告を退ける決定がされ、あらためて国が観察処分の対象とすることが認められている。

いまアレフでは、地下鉄サリン事件を知らない若い世代が新たに入信している。公安調査庁によると、毎年約100人が入信し、そのうち7割近くは34歳以下とされる。それも教団名を隠して、街頭での声かけやSNSでの交流から、ヨーガ教室や勉強会などのイベントに参加させ、人間関係を構築したうえで入信を断りにくい状況に追い込んでいく、いわばマインドコントロールの手法が用いられている。

事件の記憶が風化し、被害者の苦しみや遺族の悲しみが癒されていくことはひとつの救いでもある。だが、加害者の側が過去を忘れたように“先祖返り”するようなことがあっていいはずもない。

それを監視する目も廃れることは、歴史に学ばない愚かな行為だ。まして、事件を知らない世代が同じ過ちを繰り返すようなことは、絶対に避けなければならない。

だから、あの事件を忘れてはならない。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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