スペースジェット、「巨額減損」でも平気なのか 三菱重工業に押し寄せる「コロナ減速」の波

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スペースジェットの納入延期と、それに伴う関連資産の減損1300億円には、単なる開発遅れ以上の意味がある。それはスペースジェットが近い将来に事業化し、利益をもたらすことを「当面期待できない」ということを三菱重工が認めたことを意味する。

三菱重工の小口正範CFO(最高財務責任者)は「いったん事業化のことは考えずに、開発に専念するしかない」と、今回の会計処理の意味を解説する。三菱航空機の親会社である三菱重工が繰延税金資産を計上するということは、三菱商事やトヨタ自動車も出資している三菱航空機の価値を実質ゼロと見なすことにほかならない。

3月末には債務超過に

三菱重工はボンバルディアが持つスペースジェットと同クラスの航空機CRJの保守部門を買収する予定だ。こうした動きはスペースジェット事業化後を見据えてのものだが、開発が遅れれば、買収に伴うシナジー効果は宙に浮くことになる。

三菱重工の泉澤清次社長(左)は「安全第一で型式証明取得試験に専念する」と語る。右は小口正範CFO。写真は2020年2月の決算説明会(撮影:風間仁一郎)

売り上げのない三菱航空機は3月末には債務超過に陥るが、増資はせずに三菱重工からの貸し付けで資金繰りをまかなう。仮に開発がうまくいって事業化しても、三菱航空機への出資関係を含めてどのような体制で三菱航空機を運営するかなど、難題はいくつも待ちかまえている。

ただ、これほどの巨費をつぎ込んでも三菱重工の経営は揺るがない。近年の構造改革によって有利子負債が圧縮され、その額は2009年3月期末の1兆6128億円から2019年3月期末の6651億円へ、約半分に減らした。岩塚工場(名古屋市)の売却を決めたほか、祖業である造船部門でも長崎造船所香焼工場が売却交渉入りするなど、稼働率の低い工場の整理を進めている。泉澤社長は「国の発展段階によって必要とされる産業は変わる。進化の歴史ではないか」と語る。

スペースジェットに1400億円の開発費をかけても、2020年3月期のフリーキャッシュフローは1000億円を確保する見込みだ。これは長年懸案になっていた日立製作所との訴訟が和解になり、期末に2000億円が入ってくるほか、スペースジェット以外の事業が好調なためだ。

中でも発電(パワー)事業は、日立との和解によって三菱日立パワーシステムズが三菱重工の完全子会社になる。大型タービンでは世界トップクラスのシェアを握り、とくに環境性能のいい高効率タービンが好調だ。今後も、既存設備のメンテナンス需要が伸びることを見込む。

足元ではコロナウイルスの影響で景気減速の波も押し寄せている。航空事業の主要顧客であるボーイングは債務超過にあえぎ、3月17日にはアメリカ政府に支援を求めた。今後、スペースジェットの事業化を悠長に待つ体力があるのか。三菱重工が正念場に立たされる可能性は低くない。

高橋 玲央 東洋経済 記者

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たかはし れお / Reo Takahashi

名古屋市出身、新聞社勤務を経て2018年10月に東洋経済新報社入社。証券など金融業界を担当。半導体、電子部品、重工業などにも興味。

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