『新しい地政学』では、私は武力紛争と国際平和活動に関する章を担当した。そこで私が論じたのは、「地理」が、21世紀の様態で、武力紛争の世界情勢に影響を与えている、ということだった。
現代は、歴史的に見て、数多くの武力紛争が起こっている時代である。現代では国家間戦争はほとんど見られず、国家内紛争ばかりが発生していることは、よく知られている。
ただし、単に内戦が多いだけなら、冷戦時代からはっきりその傾向はあった。1つの国家内で1つの反政府勢力が中央政府に革命戦争を挑んでいる、といった古典的な形態の内戦は、時代遅れすぎて、もはや見ることが稀だ。現代世界の武力紛争は、複数の非国家アクターが国境を越えたネットワークを駆使して乱立しながら、周辺国や遠方の大国とも結びつきあって展開している。
「新しい地政学」を象徴する中東の武力紛争図
世界の武力紛争のほとんどは、中東(北アフリカ)を中心点として、南アジアに延び、あるいはサヘル(アフリカ中央部)に延びて結びつきあっているベルト地帯で発生している。
この武力紛争図で見えてくるのは、中東の深奥部(イラク/シリア)をほぼ中心点としながら、東方ではアフガニスタンを1つの「ノード」とし、西方ではソマリアやリビアや大湖地域やチャド湖流域を「ノード」群として連なりあっている、巨大なネットワーク図だ。
20世紀の「地政学」の登場を待つことなく、有史以来、中東の文明は、広大な範囲で大きな影響を発揮してきた。イスラム過激派が持つ広大なネットワークに対して超大国アメリカとその同盟国のネットワークが戦いを挑んだ「対テロ戦争」の到来で始まった21世紀は、「新しい地政学」を象徴する武力紛争の構図を作り出した。
中東で生み出されたイスラム過激主義の思想は、アフガニスタンの戦争を長期化・複雑化させ、ソマリアのアル・シャバブを台頭させ、ナイジェリアのボコ・ハラムを勢いづかせただけではない。
例えば、アメリカ兵に対する攻撃方法としてイラクで飛躍的に進展した遠隔操作によるIEDs(improvised explosive devices)は、アフリカの過激派が頻繁に用いる攻撃方法となって広まった。見えない敵を攻撃するために超大国アメリカが多用し始めた無人機(ドローン[UAV:unmanned aerial vehicles])による標的攻撃は、今や中東だけでなく、アフリカのサヘルでも常態化している。
この21世紀の世界においては、20世紀の世界においてと同じように、「地理」は国際政治を決定づけるような大きな要素だ。ただし網の目のネットワークと、相互浸透度が高い人と物の移動の様態は、やはり新しい。
現代世界において20世紀の「大陸国家」は、依然として大陸国家として地理的に決定づけられた性格を持っている。そして20世紀の「海洋国家」は、やはり海洋国家として地理的に決定づけられた条件を所与のものとして行動している。
しかし、高度に技術発展した21世紀の世界では、それぞれの陣営が持つネットワークは、いくつもの太いリンクを持ちながら、帯状の結びつきを形成している。
ここでも地理的条件を考慮に入れた適切なネットワーク管理の視点が必須だ。
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