となると、やはり今回のことは日本のインバウンド戦略を見つめなおす、いい機会になったと考えるべきだろう(もちろん事態の収束が最優先されるが)。
そこで、ふたたび冒頭の表を見ていただきたい。上半分のオーソドックスな観光に比べれば圧倒的に体験者数の少ない下半分のアクティビティを見て、何を感じるだろうか? スキー・スノーボード、スポーツ観戦、舞台鑑賞、映画・アニメ縁の地を訪問……これらは日本観光をしない日本人が、それぞれの趣味嗜好にあわせて日常的に楽しむアクティビティである。
さらにいえば自然体験ツアー・農漁村体験、四季の体感……とくれば、これはもう日本人の日常そのものである。食事で言うところの寿司やすき焼き、懐石料理に対する豚の生姜焼きかカレライスか、はたまた大根1本! ヨソ行きのものは何一つない。
外国人ニーズをうまく捉えた会社
それら項目が、初体験者こそ少ないものの、確実にリピーターをつかんだうえ、さらなる希望の対象になっていることは、決して見落としてはならない事実である。改めて『日本列島回復論』を見てみよう。筆者の井上氏はこうしたアクティビティを求める外国人と一緒に体験したことを以下のように示している。
「外国人のそういうニーズをうまく捉えて急成長しているのが、在日英国人が経営するWalk Japanという旅行ツアー会社です。Walk Japanは、訪日外国人向けに、日本の田舎を訪ね歩く高額の旅行ツアーを販売していますが、これが大人気です(1週間のツアーで約50万円!)。私は実際にこのツアーに参加したことがありますが、参加していた外国人達に尋ねたところ、東京、京都はもういいから、違う日本が見たくて参加したのだという答えが多く返ってきました。
そして、大分県の国東半島の山水郷で、8世紀の荘園時代からほとんど変わっていないという水田の風景を見た時に、『あぁ、これが見たかったの。このような、他の国では見ることのできない日本の原風景を見るためにこのツアーに参加したのよ』と、カナダ人の若い女性が感慨深く述べていたのが印象的でした」
ちなみに「山水郷」とは本書の中で用いられるキーワードで、自然豊かな日本の里山、中山間地のことを指す。その驚異的なポテンシャルを引き出すことこそが疲弊した日本列島回復のカギになるとしている。
地方在住の人、また地方から都会に出てきた人にとっては、なにをあのド田舎に50万円の価値があるものか、と思われるかもしれないが、前年比105%(2017)、107%(2018)、104%(2019)(矢野経済研究所調べ)と、着実に規模を拡大しつつある国内のアウトドア市場を考えると、決して外国人観光客だけに限った話でないことが、うなずけるかもしれない。気付いていないのは、そこに住んでいる人だけか、もしくは気付いているけど参入できるほど小回りの利かない従来の観光産業か……。
井上氏はWalk Japanに参加して、次のような確信を得たという。
「このときに確信したのは日本の原風景を味わえるような観光が、今後、インバウンド観光の大きな柱になっていくだろうということでした。有名な観光地や名所旧跡を回るような観光のスタイルではなく、その国の原風景や日常に触れられるような観光スタイルを確立することが訪日のリピーターを増やし、安定的な観光収入をもたらしてくれるようになるはずだと思ったのです。