利権にうごめくしたたかな「商人」たち--『排出権商人』を書いた黒木亮氏(作家)に聞く
--12月にコペンハーゲンで第15回の気候変動枠組条約締約国会議(COP15)が開催されます。絶妙なタイミングでの刊行です。
たまたま、この時期になった。経済小説はタイミングを合わせようとしても、そううまくはいかない。去年の『エネルギー』は出た翌月にリーマン・ブラザーズが潰れて、関心が一気にそちらに向き残念だった。しかし、書くことに意味がある。
--11作目で初めて女性が主役です。
今まで男性の主役ばかり書いてきて、女性はそれなりの苦労があるし、1回ぐらいはと思った。ただ、今新聞連載で『灰色の瞳』と題したトルコの女性官僚を主役にしたものも書いている。これには実在のモデルがいる。
--世界11カ国に取材したとか。プロローグはマレーシアのペナンです。
家内の休暇に合わせて、1週間ペナンに行ったとき、以前から話に聞いていた養豚場を取材した。そこで関係者や大学教授に会い、ここをプロローグに使うことにした。
--中国も北京、天津、山西省、新疆ウイグル自治区など臨場感があります。
何カ所も書けるわけではないので、中国は山西省の炭鉱と新疆の風力発電、天津のエネルギー効率化に絞った。山西省では1日600キロメートルを走ったり。産炭地のハイウェーでトラックからこぼれた石炭の雨に見舞われ、トラックの上で立ち小便するシーンにも出くわした。リアルに描写できただろうか。
--エンデイングは、希望を持たせつつ、地球温暖化に疑問符も付けました。
小説は結末がよくないと評価されない。結末がよければ7~8割方よい評価を得られる。最後をどうすべきか、真剣に考えた。本当は実際に読んでほしいところだが、主人公を一度社長昇格で「着地」させ、同時に「世紀のペテン説」で半ひねりを入れた。