国内初、大阪メトロ「顔認証改札」の実力と課題 昨年末開始、4社が実験参加したが違いは?
今回、筆者は2カ所の実験機を案内してもらった。大阪メトロの担当者が試しに何度か歩いてくれたが、ゲート前で立ち止まることなく、改札を通過していく。思っていたより、動きはスムーズだ。
取材中、マスクをつけた大阪メトロ社員が何人か通過したが、改札機はきちんと反応していた。一方、ヘルメットを被った社員を識別できない場面もあった。顔の一部が感知カメラの死角に入ってしまうためである。つばの角度を微調整して入り直すと、正確に反応をした。
では、顔を下向きに歩いたらどうなるか。スマートフォンをいじるマネをして通過してもらったら、きちんと反応していた。下側のカメラが顔を認識したようだ。ただ、別の駅では、微妙に顔を傾けるだけで認証できなくなった。
実験機によってレベルはまちまち
大阪メトロ鉄道事業本部電気部の前田隆さんによると、今回は各社にシステムの設定を委ねたので、実験機によって処理速度や認証精度、要求レベル、カメラの位置や数、デザインはまちまちだという。マスクを付けている場合でも、鼻が見えていたら認証できる改札機もあれば、まったく反応しないタイプもある。今後、9月30日までの実験で課題を抽出し、実用化に向けた検討へとつなげていく考えである。
同社は中期経営計画で、「顔認証によるチケットレス」を実現するとうたている。利用者の改札でのストレスフリーな移動を実現し、車イスの方や高齢者、乳幼児を抱える家族でも手間をかけずに行き来できることを目指している。実験に参加している社員、とくに荷物を抱えて移動することの多い技術スタッフからは、手を動かさずに通過できる点を評価する声が出ているようだ。
また、2025年の大阪万博と連携することも想定しており、あわせて駅ナカや地下街の商業施設での導入が計画されている。顔認証を生かして、万博入場券と乗車券がセットになった商品、あるいは優先的に改札口や入園ゲートを通過できる特典……と多様な商品展開も可能となるのだろう。
鉄道事業者として、コストダウンにつなげたいという考えも大きい。
自動改札機の磁気券・ICカード併用タイプは1台当たり約1千万円する。精密機械であるため部品や機器のメンテナンスコストがかさむし、切符の券詰まりなどのトラブルも頻繁に発生する。
一方、ICカード専用機だと、切符の磁気データを読み取る機器が不要なため、導入費用は3分の1程度で、ランニングコストも大幅に抑えられる。
ゆえに、鉄道各社はIC化を進めて磁気対応の改札機を減らしてきたが、大阪メトロのICカード利用率は約7割と伸び悩んでいる。磁気カードの「回数カード」(3000円で3300円分の利用が可能)と「1日乗車券」の人気が高いのも一因だ。
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