国内初、大阪メトロ「顔認証改札」の実力と課題 昨年末開始、4社が実験参加したが違いは?

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実験で、意外な盲点もわかった。社員がQRコード切符でゲートを通ろうとすると誤作動が多発した。彼らが顔写真を登録済みだったため、実験機はQRコードだけでなく顔認証にも反応してしまうのだ。同じ改札機に顔認証システムとほかのシステムを併用できるのか、問題点を整理する必要がある。

動物園前駅は日本信号製で、QRコード認証との併用タイプ。2019年の鉄道技術展で顔認証改札機を展示するなど意欲的だ(筆者撮影)

気になるのは、顔認証システムで運賃決済を行うことが可能かどうかだ。現状、誤認証の可能性を完全に排除するのが難しいため、慎重な考え方もある。運用開始時には、購入時に運賃が確定している定期券や1日乗車券などに利用を限定するプランも検討しているようだ。

個人情報の問題はクリアできるか

顔認証システムについては、個人情報の問題もある。

本人同意のないまま個人の動きをリアルタイムで識別することはプライバシーの侵害につながる。欧米では、監視カメラで不特定多数を対象に情報を集めることへの批判が高まっており、サンフランシスコ市のように、公的機関における顔認証技術の使用を条例で禁止している自治体もある。

一方、中国では、昨年以降、広州市や西安市などの地下鉄で顔認証改札機が導入され、決済手段とのひも付けも行われている。中国の地下鉄の場合、駅改札口に金属探知機が設置され、乗客は入場と同時にセキュリティーチェックも受けねばならない。当局は監視カメラで得た顔認証技術で乗客を選別し、保安検査の強化、犯罪防止も目指している。

大阪でも、顔認証が問題となったことがある。情報通信研究機構は2013年、JR大阪駅と駅ビルに92台の監視カメラを設置することを発表した。歩行者の顔を抽出し、人の動きを追跡して動線を把握することで「災害時の避難誘導などの安全対策に役立てる」と説明していたが、当初の計画を撤回せざるをえなかった。通行する人たちが実証実験への参加を拒否できないことに批判が集まったからだ。

大阪メトロは、利用者が顔認証システムを利用する際、事前の本人同意を必須とする方針である。実証実験でも、同意書を提出しなかった社員については顔情報を登録しなかった。不安を覚える利用者のためにQRコード切符やICカードなど異なる選択肢も準備する予定にしている。

次の実験段階では、顔認証データの使用範囲も課題となろう。中期経営計画に「顔認証によるセキュリティー強化」との文言もある。利用制限や保存期間、廃棄方法はどうするのか。データ活用と利用者保護を両立するために、大阪メトロと大阪市役所、そして専門家を交えた丁寧な議論を期待したい。

森口 誠之 鉄道ライター

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1972年奈良県生まれ。大阪市立大学大学院経営学研究科前期博士課程修了。主な著書に『鉃道未成線を歩く(国鉄編)』『同(私鉄編)』など。

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