これまでのやり方にこだわらない
異なる環境に飛び込む場合、求められるのは適応力だ。自身には長年かけて築いた習慣がしみ付いている反面、相手の流儀に合わせる必要性も出てくる。その両者について、どうやって折り合いをつければいいのか。
日米の球界では、さまざまな違いがある。たとえば、投手の調整法だ。日本ではスタミナをつけるためにランニングが重視される一方、アメリカの投手は一般的にあまり走らない。練習メニューの中に、ランニングが少ないチームも珍しくないという。
海を渡った日本人投手の対処法として、まず考えられるのは自主的に走ることだ。ひとりで黙々と走れば、日本時代と同じように投げる体をつくることができる。
だが、岩隈は真逆の発想をした。メジャーの一流投手があまり走らない姿を見て、その理由を知ろうとしたのだ。当時の心情について、自著『感情をコントロールする技術』(ワニブックス)でこう語っている。
「僕とは、そもそもの体の違いや身体能力の差があるのはわかっていますが、同じ人間で、同じ野球人です。『いったい彼らは、ピッチャーとしてのスタミナ(持久力)をどうやってつけているのか』という好奇心が湧いてきました」
アメリカ式を取り入れてみると、なぜメジャーの投手が走らないのかがわかった。日本では中6日で先発機会が回ってきたが、アメリカでは中4日で投げるため、試合を重ねるうちに自然とスタミナがついていったのだ。
ランニングにあてていた練習時間で、ウエートトレーニングや肩のインナーマッスル、体幹を鍛えた。さらに、ゆっくりと休憩を取った。「中4日なので、早く回復させることを意識した」のだ。
そうした調整法がうまくはまり、フォーシームの威力がアップ。好奇心が好循環を呼び、メジャー屈指の活躍を見せることができた。
「向こうには向こうのやり方があるので、それに従うというか。そうすることに変なストレスを感じることはなく、メジャー流に合わせながら自分のリズムをつくっています」
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