東日本大震災9年、復旧鉄路はこれからが正念場 交通の全面復旧後は地域とともに「復興」を

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仙石線や石巻線の石巻―女川間、常磐線の原ノ町―岩沼―仙台間などは、復興計画にあわせて「町ごとの高台への移転」や「土地のかさ上げ」が行われ、線路や駅が大幅に移設されるなどしている。震災からの復興でなければ、大都市圏における「ニュータウン鉄道」の建設に近いものがあった。つまり、都市計画に基づいた線路および駅の建設であり、駅周辺には各種の行政・商業・生活施設が配置されている。仙台市や石巻市の郊外にあたる地域ならではの復興だろう。

仙石線の利便性向上のため、仙石東北ラインが建設され、新型ハイブリッド気動車が投入された(筆者撮影)

被災住民の生活再建のため可及的すみやかに立案され実施された計画であるがゆえ、不満を言えば切りがない。しかし、鉄道駅を中心に新しい町が計画されたことは、評価すべきだ。被災者支援のうえで、少しでも負担を軽減するためには、自家用車を保有するより、まず公共交通機関利用を促進するほうが有利だからだ。被災地ではなくとも、被災者の集団移転先となった住宅地に隣接して、新駅「石巻あゆみ野」を2016年に開業させてもいる。

一方で、もともと都市への通勤圏であったがため、やはり仙台あるいは石巻への、震災前以上の利便性の確保が課題である。その答えの1つが、2015年5月30日より仙台―石巻間で営業運転を開始した「仙石東北ライン」だ。東北本線と仙石線の間に短絡線を建設し、ハイブリッド気動車を新製投入する投資を行ってまで、JR東日本は速達化などの輸送改善を行った。仙石線沿線が持つ、「ポテンシャル」に期待した側面もあるだろう。2016年8月6日からは一部列車の運転区間を仙台―女川間に延長。政令指定都市である仙台市の大きな人口の力を、同市との交流を促進することで被災地の復興に活かす方針である。

常磐線では原発事故からの地域復興が先決

2020年3月14日のJR各線のダイヤ改正に合わせて運転を再開する常磐線の富岡―浪江間、および同区間を含むいわき―原ノ町間は、何より東京電力福島第一原子力発電所事故の影響が大きすぎる。まずは全面避難解除の促進と、地域産業の復興が優先されるであろう。常磐線の復旧は、地域再生の助けとなるべく、急がれたと言っていい。同時に、震災前の常磐線は東北・北海道方面への貨物輸送の重要なバイパスでもあった。東北地方の広域的な復興促進へ向けての復旧という一面もある。

常磐線北部の津波被害を受けた区間は、町ごと山側へ移設された(筆者撮影)
2017年10月21日の営業再開当日に富岡駅に到着した一番列車(筆者撮影)

原子力発電所は事故を起こしたが、それ以前にこの地域の産業の中核であり、東京直通の特急列車も、原子力発電所と関連産業のビジネスに携わる人々のアクセスとして運転されていた側面が大きい。復旧とともに3往復の品川・上野発着の特急が設定されたが、いずれも事故の影響を最も受けた、富岡、大野、双葉、浪江の各駅に停車する。今度は、廃炉という国家的事業が進められるとともに、仙石東北ラインと同様、大きな人口を抱える首都圏との交流を促進することで、復興の一助とする姿勢であると考えられる。

常磐線については、3月14日の運転再開当日に取材し、ルポにまとめる予定であるので、詳しくはそちらに譲りたい。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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