欧州は新型コロナに加えて難民危機も再来か 「最悪のタイミング」で起きた「最悪の出来事」
もともとハンガリーのオルバン政権は右派志向が非常に強く、移民・難民に対して厳格で現実的な対応を取る。具体的には国境に鉄条網の壁を敷設し、警官隊が子どもや赤ん坊を含む移民・難民に向かって催涙ガスや放水銃を使用したことが世界的にも大きく報じられた。また、すでにハンガリーに入っている移民・難民の中にはオーストリアへ徒歩で向かいドイツを目指す者も相当数存在したので、中継地点となるオーストリアもこの展開に不満を抱く状況があった。
2015年9月5日、メルケル首相がハンガリーに滞在する移民・難民に関し、希望する者は全員受け入れるという仰天の決断に踏み切ったのはこうしたタイミングだった。これはハンガリーを含め、すでに他の加盟国で登録していてもドイツで受け入れるというものであり、ダブリン規則を公然と反故にする宣言でもあった。
美談で終わらず、「EU・トルコ合意」へ
ここまでならばメルケル首相率いるドイツの美談で終わる。しかし、その後に移民・難民が起こしたドイツ国内(とりわけケルン)での集団性犯罪事件に始まり、フランスやベルギーなどにおける凄惨なテロなどが移民・難民の受け入れに起因するものだという批判がEU内で高まり、あっという間に美談は「世紀の失策」として批判されるようになった。
ハンガリーのオルバン政権が移民に対して行った措置は確かに過剰で不適切なものだったが、同国がそれまでに移民を多く受け入れてその扱いに窮していたのも事実であった。想定外に多い移民・難民の流入を前に我慢の限界を訴えることは、それほどエキセントリックではない。むしろ、主権国家が身元照会も不十分なまま移民・難民を無制限に受け入れるほうが異常であろう。
こうしたメルケル政権におる無制限受け入れ政策の動機がどこにあったのかは判然としない。政治的嗅覚の鋭さに定評のあるメルケル首相が意味もなくそのような大決断をしたとは思えないが、詳細は時が明らかにするだろう。いずれにせよ、この決定によって経済が磐石であったにもかかわらずメルケル首相の支持率は急落し、政界引退までも決断させられる羽目になった以上、一般的な評価としては失策と整理してよいのだろう。
さて、この危機がどのようにして収束したのかである。ここで出てくるのが「EU-トルコ合意」だ。地理的な事情もあってトルコは世界最大の難民受け入れ大国となっている。EUの統計によれば、トルコからギリシャに流入した難民は2015年に85.7万人に上っている。裏を返せば、トルコが協力的で当地からEUへ流れ込む難民をせき止めてくれれば、EUは域内で決着の見込みが立たない移民・難民の受け入れ分担問題を回避でき、難民危機を抑え込める。
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