「昭和の時代劇」悪役・アウトローの圧倒的魅力 1970年代のベスト3作品は何が面白かったか
その後も東映では千葉真一の「影の軍団」シリーズなど忍者の名シリーズが制作された。若き日の真田広之、伊原剛志らもここで育てられた。東映京都撮影所では昨年、時代劇専門チャンネルによる特撮アクション時代劇「BLACKFOX:Age of the Ninja」の撮影が行われた。監督・アクション監督はアメリカで技術を磨き、「ウルトラマン」「仮面ライダー」「スーパー戦隊」など日本が誇る特撮シリーズにすべて関わった坂本浩一。
私は現場取材で、父の仇を追う女忍者・石堂律花(山本千尋)が狭い道を全速力で走りながら、刀を抜き、多くの敵とぶち当たるシーンを繰り返すのを見て、忍者魂は受け継がれているなあと感心した。CGなど映像技術が進化したからこそ生身の人間のアクションを前面に出して、痛みや心情を伝えたいという監督の意向がビシビシと伝わってきた。
「黄金の日日」の魅力もまたアウトローたち
最後に取り上げる「黄金の日日」は1978年放送の大河ドラマ。CGなどは使われていない時代の作品である。原作は城山三郎、脚本は市川森一。戦国の世、最先端の自由都市・堺を舞台に南蛮貿易に身を投じた呂宋助左衛門を市川染五郎、現・松本白鸚が熱演。大海原に夢を広げる壮大なストーリー、大河ドラマ初の海外ロケをした話題作であった。
この作品で都市にうごめく怪しげな戦国アウトローを演じたのは唐十郎、李礼仙などアングラ系俳優たち。中でも人気となったのは川谷拓三演じる杉谷善住坊と、根津甚八演じる石川五右衛門だ。
堺を支配しようとした織田信長の狙撃に失敗した善住坊は、地中に埋められ、通りがかる人々に竹の鋸で少しずつ首を斬られる残酷な刑に処せられる。権力者に逆らった見せしめだ。大盗賊として知られる五右衛門は、助左と出会い、一度は盗賊から足を洗って船に乗ったが、老いてなお朝鮮で無謀な戦を仕掛ける豊臣秀吉に怒り、仲間と伏見城に潜入して暗殺を計画する。仲間5人に「地獄で会おうぜ」と声をかける五右衛門。
だが、秀吉の寝所まであとふすま1枚のところで捕縛されてしまう。血まみれの五右衛門は、どれほど責め立てられても助左らを守るため「船だの海だの大嫌いの大苦手」と口を割らない。根津が凄みのある声で「夜ごと寝耳を驚かす盗賊と相成りました……」と一人語りし、微笑みながら煮えたぎる大釜の湯に身を投げる場面は、語り継がれる名シーンだ。
底辺に生きるアウトローたちは社会の矛盾や権力者の横暴を、自ら鏡となって映し出す。史実にとらわれず作家が思う存分書き込める彼らによって、ドラマが盛り上がったのだとよくわかる。
自由とは、戦とは、生きるとは。時代劇だから描けるテーマにガッツリと向き合い、泣き笑いのストーリーの中で見る者に考えさせる。私はずっとそんな時代劇を愛してきたし、これからも見たい。配信など世界視野で展開できる今、日本の強力コンテンツとして、未来があるはずだ。
(月刊『GALAC』2020年4月号掲載記事を転載)
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