億人単位の死者も危惧される温暖化の甚大影響 グローバルな気候崩壊の連鎖が何を起こすか

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作物の収穫高の減少、伝染病、移民や内戦、犯罪の増加、家庭内暴力、ハリケーンと熱波、集中豪雨、大規模旱魃(かんばつ)、経済成長の動向――気候変動はこれらすべてに関連し、私たちを包囲し、支配している。

世界銀行は、二酸化炭素の排出が現状のままであれば、南アジアで2050年までに8億人の生活状況が悪化すると予測している。さらに、2100年には気温が4℃以上上がることを考慮すると、ここ40年は世界全体で5パーセントに達していない経済成長がほぼ帳消しになる。

「成長」は望めない

これを「定常経済」と呼ぶ研究者も一部にいるが、そうなったら経済は航路標識の役割を失い、「成長」は望めない。「定常経済」という言葉には、歴史の前進が否定される恐怖がにじんでいる。

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2018年、専門誌『ネイチャー・クライメート・チェンジ』に発表された研究が、温暖化が1.5℃か2℃かで、被害がどう変わるかを割り出している。それによると、わずか0.5℃の違いで、大気汚染による死者が1億5000万人以上増えるという。同年、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した試算では、その数は数億人に増えた。

1億5000万人というと、ホロコースト25回分に相当する。歴史上最も多くの犠牲者を生んだ第2次世界大戦全体の死者と比較しても、2倍以上である。気候変動が「存在を揺るがす危機」と呼ばれるのはこういう理由によるだろう。

ホロコースト25回分の死者と被害が最善で、人類滅亡の瀬戸際が最悪のシナリオだ。私たちは極端な2つのシナリオの間で、行き当たりばったりに揺れ動いている。異常な事実と、極端なシナリオをもとに展開されるこのドラマは、規模が大きすぎて、いま生きている私たちだけでなく、未来の人類まで巻き込まれることになる。

デイビッド・ウォレス・ウェルズ 新アメリカ研究機構ナショナル・フェロー

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David Wallace-Wells

アメリカのシンクタンク〈新アメリカ研究機構〉ナショナル・フェロー。『ニューヨーク・マガジン』副編集長。『パリ・レヴュー』誌元副編集長。2017年7月、気候変動の最悪の予測を明らかにした特集記事「The Uninhabitable Earth」を『ニューヨーク・マガジン』に発表し、同誌史上最高の閲覧数を獲得。2019年、記事と同タイトルの書籍(邦題『地球に住めなくなる日―「気候崩壊」の避けられない真実』NHK出版)を上梓。ニューヨーク・タイムズ、サンデー・タイムズ両紙のベストセラーリストにランクインするなど世界で大反響を呼んだ。「ニューヨーク・タイムズ紙、2019年ベストブック100」選出。ニューヨーク在住。
(写真ⓒBeowulf Sheehan)

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