リベラルも保守も再評価すべき「国家」の意味 「新しい地政学」時代の自由民主主義の課題

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では新しい地政学は伝統的な地政学とどこが違うのか。

現代の地政学の第1の条件は、実際に大規模な近代戦闘が起これば、たとえ通常戦争であってもそのコストは大きすぎて、割に合わないものとなっていることである。そのため、主要国の正規軍どうしの大規模な軍事衝突の可能性がなくなったわけではないが、対外政策の手段としては不合理である。

よって軍事力の役割として、威嚇や抑止が一層重要になりそうである。軍事力が実際に行使される場合には、烈度は比較的低く、非軍事的な手段と組み合わされて展開される、いわゆるハイブリッド戦争の形態をとる可能性が高い。政治と軍事の連続性が、今まで以上にいっそう重視されねばならない。

第2に、現代の世界では、戦略的対立関係にある主要国の間に、緊密な経済的相互依存が成立していることがある。経済的相互依存が高まれば、良好な国際関係を失うことは損になるから世界は平和になるだろう、というのがグローバル化推進論の背後にあった論理であった。

しかし第1次世界大戦は、貿易でも国際金融の面でも高度の相互依存が成立していたヨーロッパで、2大経済大国であるドイツとイギリスの間で実際に起こったし、今や中国は日本やアメリカとも密接な経済的関係があるが、それで中国の行動が平和的になったとは考えにくい。

むしろ、経済のもつ戦略的意味がますます意識され、国際経済が国家間の権力争いの場としての色彩が濃くなっている。中国の推進している一帯一路計画は、明らかに強い戦略的な意味を帯びているし、米中間の貿易摩擦も、トランプ大統領がどこまで意識しているかは疑問だが、ライバル国間の勢力争いの新たな競技場となっていると見てよいだろう。

「シャープ・パワー」の試練に立ち向かう自由民主主義

また国家による領土の争奪をめぐる争いに代わって重視されてきたのが、「ソフト・パワー」に代表される、国境を越えて世論を動員する力である。とりわけインターネットが世界に普及し、国家の管理が及ばない脱領域的なサイバー空間を通じて情報が世界中で自由にやりとりされるようになると、世界の民主化が進み、リベラルな価値観が普及するだろうと期待された。 

だが、中国やロシアに代表される権威主義的国家では、インターネットもAIも体制が社会を支配するための便利な手段として威力を発揮している。そればかりか、こういった国々は、自国のサイバー空間を厳しく統制しながら、自由民主主義国の自由で開放的な制度を利用して積極的にその言論にも影響力を行使する「シャープ・パワー」を行使し始めているではないか。

つまり自由民主主義諸国は非リベラルな勢力から、軍事、経済、言論などの多数の分野で多次元的な挑戦を受けており、自由民主主義という生活様式をどうやって守るのかが問われているのである。

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