三菱電機、「情報流出」「過労自殺」が相次ぐ事情 縦割り組織や風通しの悪い風土が遠因に

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過労やそれに伴う自殺も繰り返し起きている。

三菱電機によると、2014年から2017年に三菱電機の社員5人が長時間労働などで労災認定され、うち2人は長時間労働が原因で過労自殺をしている。この5人とは別に、2019年8月に上司からパワーハラスメントを受けたとされる新入社員が自殺し、上司は2019年11月に自殺教唆容疑で書類送検された。

三菱電機は1月に「最優先課題」として労務問題の再発防止策「職場風土改革プログラム」を公表した。しかし、新たな施策は一部分に限られ、改革を遂行するための専門組織も設置されていない。

失敗しても上司に相談できない

一部上場企業で、これほど短期間に長時間労働を原因とした労災認定が相次ぐのは異例のことだ。たび重なる品質問題も含め、三菱電機社内でいったい何が起きているのか。

三菱電機の元社員は「失敗しても上司に相談できる環境ではなく、(仕事の)ミスや問題はそのまま引き継がれていた」と打ち明ける。こうした企業風土が、隠蔽(いんぺい)とも受け取られかねない問題の報告遅れや社員の自殺を招いている可能性がある。

三菱電機は、携帯電話や洗濯機といった不採算事業からいち早く撤退して「選択と集中」を進め、2009年のリーマンショック時にも赤字に転落しなかった数少ない大手電機メーカーだ。事業や工場ごとに損益を管理し、「優等生」と呼ばれる収益体制を保ってきた。

その一方で、部門ごとの独立度が高く、「事業間の連携がとりにくい」(三菱電機幹部)という課題も抱えている。社長直轄で事業横断的な取り組みを先導するビジネスイノベーション本部を2020年4月に新設し、事業間のシナジーを高めていこうとしていた。

防衛情報の流出疑惑を受け、社長直轄の情報セキュリティ統括室を4月に新設すると発表した。文書管理の再点検や従業員教育の充実を進めるが、実際の情報の利用・管理は各事業本部の本部長や事業所長が管理責任を負う体制は従来と大きく変わらない。

2020年3月期は、売上高が4.5兆円(前年同期比0.4%減)、営業利益が2600億円(同10.5%減)と減収減益で、柱のFA(ファクトリー・オートメーション)や自動車機器関連の市場環境が厳しいながらも、家電や重電は堅調だ。株価も1500円前後で安定的に推移し、一連の不祥事などに大きく反応しているようには見えない。

だが、「経営戦略の基本は、社会課題を解決するような企業になろうということ」(杉山武史社長)と掲げる以上、社内ガバナンスの改善は急務だ。

田中 理瑛 東洋経済 記者

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たなか りえ / Rie Tanaka

北海道生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。報道部、『会社四季報』編集部を経て、現在は会社四季報オンライン編集部。食品業界を担当。以前の担当は工作機械・産業用ロボット、ドローン、医療機器など。趣味は東洋武術。

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