群馬の小さな町が直面し続ける移民流入の現実 大泉町、日本屈指の外国人タウンが歩んだ30年

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「10年くらい前まではね、ポルトガル語とせいぜいスペイン語の表記があれば事足りた。それが今ではアジア系の言語の表記も必要になったから大変です。いまだにこの町では日本語を読める外国人の割合は圧倒的に少ないですから」

大泉町で日用品の個人商店を営む日系人の女性は、複雑な表情を浮かべながらこうぼやいた。

東武鉄道小泉線の終着駅である西小泉駅(筆者撮影)

以前、筆者が大泉町を訪れたのは5年前。最寄り駅の「西小泉駅」から下車すると、かつて滞在したブラジルと重なる熱気と混沌を感じたことが強く記憶に残っている。一方で当時からアジア系の移民が増えている、というような話もよく聞いていた。

改めて町内のメインストリートである、グリーンロードを歩くと明らかに南アジア系の店舗が増加していることが目につく。近くに飲食店を構える篠原晃さん(60)も、町内の変化を感じ取っていた。

「かつてのブラジル人を凌駕する勢いで、アジア人の進出が目立つようになりました。この通りでは、ネパール、ベトナム、カンボジアといった国の人たちを最も見るくらいですから。面白いのは、各地域にコミュニティーがあり、彼らはほかの地域のコミュニティーとは決して交わらないということです。私も自分の飲食店が国籍を問わず垣根なく集える場所にしたくいろいろ試みましたが、結果的には頓挫しています」

とくに増加が激しいのがネパール出身者だという。2011年時点で82名だった移住者は、2018年には671人に急増した。ネパールから日本に来て9年。隣接する太田市在住だが、わざわざ大泉町に店舗を構えたというのはギタ・べトワールさん(32)。グリーンロードに食料品店を営むギタさんは、店舗の状況についてこう話す。

アジア系のお店も最近増えてきた(筆者撮影)

「ネパール人はもちろん、ベトナムやカンボジア、タイ人が主なお客様です。ブラジル人や南米系の人は来ませんし、日本人もほとんど来ない。言語の問題はありますが、ほかの国の人たちとの接点はほとんどないです。

つまりこのお店は、アジア系のコミュニティーだけで成り立っていることになります。ネパール人がなぜこの地域に多いのか? それは大泉町が住みやすい、という話を同胞から聞き集まってくる人が多いからでしょうね」

3Kの仕事を担うアジア系移民

大泉町に住む外国人とひとくくりにしても、大きく分けて3つに分類される。1つはブラジルやペルーを中心とした南米からの定住者。インドネシアやベトナムといった東南アジア圏の国からの技術実習生に代表されるような、一時的にこの町を訪ねた人々。そして、ネパールや中国を中心とした、日本の別の地域からこの町に流れてきた層だ。

大泉町観光協会副会長である小野修一氏は、彼らの違いについてこう分析する。

「この町では、もはやかつてのブラジル人に代表されるような「デカセギ」という言葉は死語です。家を購入する定住者も多い中で、さらにインドネシアやベトナム、タイといった国から技術実習生の受け入れ準備も進めています。そのほかでも、留学や短期の労働者と思われるアジア人も流れてくるようになってきている。

私見ですが、アジア系の労働者は2、3年で移ることが多いので、これ以上大幅にアジア人が増えることはないでしょう。ただ同じ水準で今後もこの町に働き口を探しに来る人はいると見ている。ブラジル人より安く使えるアジア人は重宝される傾向にある。彼らが従事するのは、日本人が嫌ういわゆる『3K』の仕事。慢性的な人手不足であるこの町では、彼らの労働力に頼っている面が大きいのです」

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