群馬の小さな町が直面し続ける移民流入の現実 大泉町、日本屈指の外国人タウンが歩んだ30年

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その一方では受け入れ体制を進め、労働条件に関しては改善されつつあるという指摘も聞こえてきた。日系人を中心とした同町内の人材派遣業会社の従業員が明かす。

「労働条件に関しては、一昔前よりもだいぶよくなりました。正社員で働くよりも派遣で働くほうが稼げる金額が多いくらいの水準まできています。求人件数も増加傾向です。群馬県は基本的にモノづくりの県であり、近年ではとくに慢性的な人材不足に陥っていて、県全体でも、もはや外国人の労働力なしでは成り立たないところまで来ています。

一方で、企業からの要求は年々高くなっており、『日本人と同程度の日本語レベルが欲しい』と言われることが多いので、働き手とのギャップも生じています。日系ブラジル人の方は仕事を選ぶ傾向にあり、なかなか長期での雇用につながっていないという問題もあります」

語学や家庭教育の問題で、日本で働く素養がない移住者が増えていることも事実だ。教育や労働現場でも問題が顕在化している。さらに行政面でも、住民税や健康保険料といった納税、教育費といった財源面で苦悩しているのも現実だ。

大泉町の町長である村山俊明氏は、『文藝春秋』(2018年11月号)(「外国人比率トップ群馬県大泉町の悲鳴」著:高橋幸春)の中で、町の財政状況に関してこのように述べている。

「ブラジル人をはじめとした定住者を取り巻く問題は教育や納税、社会福祉など多岐にわたります。現行制度のままでは、地方自治体だけの対応で外国人労働者を受け入れることは、もはや限界です。大泉町の努力だけでは、『共生』は進まない状況にあるのです」

村山氏が定義する問題の1つには、外国人居住者の生活保護受給率の高さも挙げられるだろう。大泉町の生活保護所轄課によれば、大泉町全体の生活保護受給者は375人。その内外国人が締める割合は94人で、実に全体の25.1%を占める(数字は2018年末時点)。

担当者は筆者の取材に対して、「人口的にも外国人の割合が多く、それに伴い、外国人の生活保護受給割合も他市町村と比較すると高くなっているものと考えている」と答えている。

なぜ生活保護を受ける外国人が多いのか

さらに取材を進めた結果、生活保護を受けている層は急増したアジア系の人々ではなく、基本的には南米系の移住者の層が多いことも見えてきた。

この町で生活保護を受給する日系ブラジル人の男性は嘆く。

「仕事を転々としてきたが、体を壊してしまい働けなくなった。私が日本語をうまく話せないから、子供も日本語が話せなくて、学校を不登校になってしまい、ポルトガル語も日本語も十分に話せないから仕事探しに困った。ブラジルに帰ることも考えましたが、帰国の費用もない。今後は日系4世も増えてくるでしょうが、私たちが解決すべき問題は多いんです」

また、名古屋から大泉町に移り住んだ日系ブラジル人のグランベル・仙台さん(38)は、流暢な日本語で町の事情について明かしてくれた。

「合う合わないはありますが、私にはこの町が合わなかった。名古屋ではブラジル人らしく、個々の生き方を重視するライフスタイルでしたが、この町では同じブラジル人の中でもいくつかコミュニティーがあり息苦しさを感じました。日本に長く住んでいる人が多いため、考え方まで日本人のように染まっていました。

そして、生活保護を受けている同胞が多いという理由で、ブラジル人=怠け者という目で見られることも耐えがたかった。ブラジル人の中には、アジア人に仕事を盗られているという認識を持つ人もあり、そういう感覚も理解できなかった。そんな経緯もあり、春からは名古屋に戻る予定です」

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