「インフル特効薬」急落で塩野義が迎える正念場 「ゾフルーザ」を耐性ウイルス問題が直撃

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臨床試験やこうした調査結果などを受けて、日本小児科学会は今シーズン、「(ゾフルーザの)積極的な投与は非推奨」とすることを決定。日本感染症学会も同様に、12歳未満の小児には「慎重に投与を検討する」ことを提言した。このことが、「小児科の現場での処方に相当なブレーキをかけている」(日本感染症学会の委員を務める佐賀大学医学部の青木洋介教授)。

実際、塩野義によれば、今シーズンの12歳未満でのシェアは3%程度にまで落ち込んでおり、ほとんど使われなくなっている。成人の治療現場でも「報道で耐性ウイルスのことを知り、ゾフルーザの処方を拒否する成人患者が出ている」(医療関係者)という。ゾフルーザを避けるインフル患者は幅広い年代に広がっているようだ。

にもかかわらず、塩野義は足もとで11%のゾフルーザのシェアが2020年1~3月に50%まで急回復すると計画している。その重要な根拠となっているのが、足元ではほとんど耐性ウイルスが検出されていない点だ。

足元の耐性ウイルス発現率は低いが...

国立感染症研究所の調査によれば、今シーズン流行しているH1N1型で、ゾフルーザの耐性ウイルスが検出された患者は408例中1例と0.2%のみ。昨シーズンの2.3%に比べ、足元では広まっていない。また、競合インフル薬であるタミフルとラピアクタはいずれも1119例中18例と1.6%に達しているのに比べ、ゾフルーザの発現率のほうが低い。

とはいえ、現実的には「シェア50%計画達成のハードルは高い」というのは塩野義関係者も認めるところ。2020年2月初めまでの期間において、インフルエンザ患者に占める小児の比率は4割に達している。慎重投与が提言されている小児の比率が今後も同様の水準であれば、12月まで11%だったシェアを50%まで大幅に伸ばすことは容易ではない。

ゾフルーザは、感染症治療薬を主戦場とする塩野義が開発を最優先してきた薬剤だ。国内・国外をあわせた年間売上高が1000億円を超える大型薬になるとの期待もあったが、耐性ウイルス問題が長引けば、ゾフルーザが大型薬に成長することは難しい。そうなれば塩野義の中期的な収益計画も引き下げざるをえなくなり、今後の新薬開発計画にも響きかねない。

「感染症の塩野義」は正念場を迎えている。

石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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