田嶋陽子が斬る!「男手放しても職手放すな」 女性は今の時代をどう生き抜けばいいか

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それから、恋愛幻想や結婚幻想は持たないこと。恋愛なんて一生しなくても構わない。みんながしているからするなんて、そんな馬鹿なことはありません。もし周りがするべきだと言ったら、「私の人生は私が決める」としっかり言う。もっと頑固な自分を持たないといけません。それを実行するためにも、自分のパンは自分で稼がなきゃ。

――選択的夫婦別姓制度が国会に出されていますが、まだ導入されません。自分の姓を持つことは大事ですか?

政府は別姓にすれば家族が壊れると言うけど、家族はとっくに壊れています。「名は体を表す」で、フルネームはその人のアイデンティティでしょう。夫の姓に変えることは自分をなくすこと。それに、個人情報が大事と言いながら、女は名字が変わったら個人情報がバレてしまうのは、人権侵害だとちゃんと言わないと。

今、バリバリ働く女の人は確実に増えた。新聞には女性の署名入りの記事が多いし、去年は直木賞候補が全員女性でした。だけど、国会を見なきゃ。国会にはほとんど女性がいないでしょう。特に大臣のポジション。選択的夫婦別姓制度が導入されないのは、女の意見を代弁してくれる人がいないからですよ。女の人が行政に入れば、男の人が目配りできない生活面にも目配りができます。

人は誰でも「1本の木」

先日も介護のために地方議員を辞める人がいたけど、そういうことは行政の恥です。女の人たちは、サポートしてくれる地方自治体を選んでそこに移動するしかない。こういった問題の根本に女性差別があって日本の社会には本当の民主主義は根づいていない、と私は思っています。国民の半分を占める女性が、フルタイムで働いて税金を納めれば日本の国力は上がります。少子化で人手が足りないのに、女の人を安く使っていたらダメですよ。

女の人も、男の人と一緒に暮らしたいなら、話し合って自分の時間を減らさないようにしないと結局不幸になるでしょう。好きだからって相手を自由放免にしちゃいけない。フェミニズムとは、女の人も女である前に1人の人間だということです。相手と自分の人権を守りながら、自分の人生を自分で作っていくことです。

私はよく、人は誰でも1本の木だと言っています。枝葉に子どもや結婚、介護がある。それを女の人は自分を枝葉にするから苦しくなる。自分は1本の木の幹だという自覚を持てば、倒れたくないから世の中も見るし、今、何が問題かもわかるけど、自分を枝葉にしてしまうとわからない。フェミニズムとは、女の人は一人ひとりが大樹なんだという主張です。

田嶋氏の話は、聞いてみればどれも正論で、話の中心は、経済的に自立する大切さにあった。同時に、シングルマザーの自立が難しいこと、女性の政治参加がほとんどないなど、まだまだ課題が多く残されていることにも気づかされた。特に政策決定の場に、女性が不在という問題は大きい。

そういう課題だらけの社会を変える第一歩として、女性たちが声を上げ始めたのは、世代交代だけでなく、仕事を持つ女性が増えたからなのだ。何しろ今、現役世代の既婚女性は共働きが専業主婦の2倍もいる。経済的に自立したからこそ、自分の意見をはっきり言える。

しかし、あまりにも長い間差別が当たり前だった社会で、自分のモヤモヤの原因がハッキリわからない、あるいは勇気を出して口に出せない、と感じている人も多いのではないだろうか。本当に社会を変えるには、もっと足を踏み出さなければならない。だからこそ、私たちは昔から闘ってきた先輩の声に、改めてきちんと耳を傾けたくなったのではないだろうか。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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