工場や物流を止めかねないサイバー攻撃の実態 米沿岸警備隊の施設が30時間超オフラインに

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2019年12月、米沿岸警備隊はランサムウェアが施設のITネットワークに侵入したと発表した。ただし、米沿岸警備隊は、被害にあった施設の名前と場所を公表していない。

職員がなりすましメールを開いて、メールについていたリンクをクリックしたところ、感染してしまったという。攻撃者は施設のITネットワーク上のファイルを暗号化し、職員がファイルにアクセスできないようにしてしまった。

ウイルスは、ITネットワークから、貨物輸送を監視・管理するための産業用制御システムにも拡大し、作業上不可欠なファイルを暗号化した。感染のせいで、ITネットワークすべて、カメラ、物理的なアクセス制御システム、重要なプロセス制御用の監視システムが使えなくなった。この施設では30時間以上にわたって主要業務を停止した。

「リュク」と呼ばれるこのランサムウェアは、金銭目的のロシア人犯罪集団が作ったものとみられている。2018年8月から使われるようになった。攻撃者は、巨大な組織や政府機関を狙ってサイバー攻撃を仕掛け、多額の身代金を要求する。ほかの種類のランサムウェアは1件当たりに要求する身代金が平均で1万ドル(約110万円)なのに対し、リュクは28万8000ドル(約3168万円)を平均で要求する。

実は、2019年末頃から、港湾施設への大規模なサイバー攻撃があるのではないかと専門家が警鐘を鳴らしていた。その懸念が的中した形だ。

ランサムウェア被害を防止するには

金銭目的の犯人にとって、ランサムウェアを使ったサイバー攻撃はあくまでも“ビジネス”だ。そのため、身代金の金額は被害者が支払える程度に設定している。しかし、支払った金は次のサイバー攻撃に使う資金となるため、米連邦捜査局(FBI)は払わないよう呼びかけている。

しかも、身代金を払っても、暗号を解くための鍵を犯人が渡してくれるとは限らない。米コンサル企業のサイバーエッジ・グループが2018年に出した報告書によると、身代金を払ってもデータの暗号を解けた被害者は49.6%と半数以下だった。

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また、いったん感染してしまうと、使えなくなったパソコンやサーバーの入れ替えや、業務停止に伴う損害、感染被害規模の調査などで多額の被害が出る。例えば、2019年5月にランサムウェアの感染被害にあったアメリカ東部のメリーランド州ボルティモア市は、1800万ドル(19億8000万円)の被害を出したと報じられた。

感染による業務妨害を防ぐには、リアルタイムでネットワーク内の異常を監視し、侵入を止めるためのサイバーセキュリティ対策が求められる。

さらに、万が一、コンピューターがランサムウェアに感染し、データにアクセスできなくなってしまう事態に備え、業務にとって大切なデータのバックアップをこまめに取っておくことが必要だ。

松原 実穂子 NTT チーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジスト

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まつばら みほこ / Mihoko Matsubara

早稲田大学卒業後、防衛省にて勤務。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院に留学し、国際経済・国際関係の修士号取得。修了後ハワイのパシフィック・フォーラムCSISにて研究員として勤務。帰国後、日立システムズでサイバーセキュリティのアナリスト、インテルでサイバーセキュリティ政策部長、パロアルトネットワークスのアジア太平洋地域拠点における公共担当の最高セキュリティ責任者兼副社長を歴任。現在はNTTのチーフ・サイバーセキュリティ・ストラテジストとしてサイバーセキュリティに関する情報発信と提言に努める。著書に『サイバーセキュリティ 組織を脅威から守る戦略・人材・インテリジェンス』(新潮社)。

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