「若者は安倍政権支持」の幻想と現実 距離をとり始めたロスジェネ
「以前は意識的に政治とリンクを張ってきたが、いまは南三陸町の防潮堤のように政治が作る制度と現実の乖離が激しくて、もう政治とリンクする気持ちを持てなくなった。自分たちで解決手段を模索するようになっています」
72~82年に生まれ、バブル崩壊後に社会に出たロスジェネ。約2千万もの人口を抱えるこの世代は05年の小泉郵政選挙や09年の政権交代選挙などで存在感を示してきた。ところがここにきて、政治参加のうねりが急速に後退しつつある。
分裂と階層の固定化
自民党が大勝し、安倍晋三政権が生まれた12年12月の総選挙で、30代の投票率は50.10%にとどまった。09年総選挙からの下落幅は13.77ポイントと全年代で最大だった。安倍政権への信任が示されたとされる13年7月の参院選では、43.78%まで低迷した。『若者を殺すのは誰か?』などの著者、城繁幸さん(40)は、この要因を安倍政権がロスジェネの受け皿になっていないためだと言う。
「構造改革を標榜した小泉政権は確実に受け皿だった。民主党も元は構造改革政党だったからロスジェネの支持を集めた。ところが現在、与野党ともにこの世代が求める政策を掲げない」
本誌は同世代のキーマン10人に取材するとともに、全国の30代500人にアンケートを行った。その結果からは、安倍政権に一定の評価を与えているようにも見える。シンクタンク「青山社中」筆頭代表の朝比奈一郎さん(40)は、その評価は特に経済政策に対してだ、と指摘する。
「金融緩和というアベノミクスの『1本目の矢』の印象が大きく、ツケの後回しである『2本目の矢』の財政出動への問題意識は薄まり、『3本目の矢』である成長戦略は安倍総理が出すと言い続けている。結果、改革派と認識され、評価を得ている」
実際、「支持する」政策は圧倒的に「金融緩和」。「支持しない」人たちが評価できないとする政策で、「消費増税」や「歳出総額96兆円の14年度予算案」などが上位に来るのも、その裏返しとみられる。
フリーライターの赤木智弘さん(38)は、一部が40代に突入したロスジェネで、分裂と階層の固定化が起きていると分析する。
「数年前なら、この世代の正社員は失業の危機を実感していて、非正規社員とも思いが共有できた。ところがその交換可能性が徐々に減り、正社員はいまの会社や立場にしがみつこうとする。安定した人たちは安倍政権に取り込まれ、あぶれた人たちの存在を見ようとしない。そして安倍政権は、再分配政策には何も手を打とうとしていない」
互助しようという意識
目立つのが、支持・不支持にかかわらず、政策が「わからない・(評価するものが)特になし」とする回答だ。2月の都知事選については、「投票に行かなかった・支持したい人がいなかった」が54.4%にのぼっている。
「安倍政権や自民党政権に対する支持は、積極的に投票に行こうという熱狂的なものではない。冷静で、ある意味、消極的な支持なのです」(朝比奈さん)