ソフトバンクG「大赤字決算」が映す根本的難題 戦略的持ち株会社としての戦略は大きな後退

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これを受け、2020年2月7日付の日本経済新聞は「SBG株が大幅に割安になっているとの一般的な見解に完全に同意する」とのSBG広報担当者のコメントを紹介している。そして孫正義社長は、2月12日の決算会見においては、エリオットについて「2週間ほど前にエリオット側と面談した。さまざまな意見を歓迎したい」と述べた。

エリオットは1977年創設の最有力アクティビストの一つで、「世界最恐の投資家」ポール・シンガーが創業者兼共同CEOとして率いているファンドだ。経営改善等を提案する「モノ言う株主」で、これまでも財務的に厳しい会社の株式や社債を対象にする「ディストレスト投資」や金利差や価格差に着目した売り買いでサヤを抜く「アービトラージ取引」(裁定取引)を主な手法としてきた。財政破綻国家も投資対象とし、アルゼンチン国債のデフォルトから15年続いたアルゼンチン政府との争いでは、同政府から大幅譲歩での和解を勝ち取り、大きなリターンをあげている。

SBGへの投資はエリオットの最も大きいポジションの一つであり、その規模は時価総額の約3%とされる。発行済株式の3%の持ち株比率では、行使できる権利は形式的には株主提案権、株主総会招集請求権、会計帳簿閲覧権等に限られるものの、エリオットの手法や影響力からすれば、メディア等を通して、経営上の要求をSBGに受け入れさせる影響力をもつことも可能であろう。一方で、今後の「株主第一主義」経営への転換予想から、SBGの株価には上昇期待が高まっている。

AI群戦略への影響を特に注視

SBGのAI群戦略への影響については特に注視する必要がある。AI群戦略とは、AI関連企業に特化した投資を行う方針のもと、各事業領域のトップ企業へ投資、それらを同志的に結合させ「群」を構成することでシナジーを創出する戦略である。

同志的で緩やかな「群戦略」の概念は、短期的リターンやコングロマリット・ディスカウント解消を求め厳格な資本的支配を重視するエリオットの投資戦略とは相容れない。同社の群戦略は人的交流や情報収集においては一定の成果を上げてきた中核的戦略であるだけに、根本的部分で価値観が異なる「モノ言う株主」が登場したことの影響は経営戦略全体にも及ぶ多大なものになると予想される。

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