2つの事件でドイツ政局が不気味になってきた

メルケル退陣が近づく中、後継者も失脚

もっとも、ここまで既存政党(CDU/CSU、SPD)が凋落している以上、連立政権の組み合わせ次第では野党・第1党である緑の党から首相(党首はハベック党首)が出ても不思議ではない。昨今の欧州における環境意識の高まりと強すぎるこだわりを思えば、十分ありうるシナリオだ。

ドイツに限らず欧州では極右・極左(端的にはポピュリスト)政党の台頭によって既存政党が安定多数を取れず、複数政党による連立政権を余儀なくされる動きが珍しくなくなっている。こうした状況下、極右勢力が間隙を突いて今回のような事件を起こしやすい地合いもある。

ナチス前後で歴史を分断して考えるドイツのような社会であっても極右の台頭を懸念しなければならなくなっている現状を捉え、「欧州統合というプロジェクトがかつてない試練に直面している」と論じる向きは少なくない。

日和見主義と理想主義が残した問題

しかし、必ずしもそうとはいえない。

メルケル首相の責めに帰すべき部分も小さくない。元より保守色(右派)の強いCDUだが、メルケル首相の機を見るに敏な、悪く言えば日和見的な、政策運営によって左傾化が進んできた。それが長年のライバルだったSPDの支持層を切り崩したわけだが、近年はそうした左右に偏らない中道的な政治姿勢が極左・極右双方から挟み撃ちされて、支持率が低迷する事態となっていた。

また、見方を変えれば、日和見的なメルケル首相の政治手法が極まった結果が今回の「極右(AfD)と同一候補を支持する」という動きにもつながったとも考えられる。もちろん、メルケル首相がそうした展開を主体的に望んだとまではいわない。メルケル首相は2月6日に先日を振り返り、「許せない。民主主義にとってひどい日になった」と述べている。だが、今回のような事件に至る党内外の情勢にメルケル首相自身が関与してきた部分もあった。

今、ドイツで起きている政変は、メルケル首相が2015年9月に決断した難民・移民の無制限受け入れ政策に起因している部分が大きいはずである。あの決断がパスポートコントロール(国境検査)の復活を招き、西欧(≒ドイツ)と東欧の亀裂をもたらし、経済が磐石だったにもかかわらずメルケル首相に政界引退宣言をさせるにまで至ったのである。

EU(欧州連合)レベルで言えば、どう考えても合意形成が困難な難民・移民の受け入れ配分の議論に時間を空費せざるをえなくなり、やるべきEU改革(ユーロ共同債やユーロ圏財務省設立など)が頓挫したことも見逃せない。そうこうしているうちにドイツは2021年、フランスは2022年にリーダーが変わってしまう。

EU改革が進むとしたら早くても2022年以降だろう。今回のドイツ政局における2つの事件の示すところは、「EUの問題点」もさることながら、「メルケル政権の日和見主義と理想主義の問題点」だと筆者は考えている。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

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