2つの事件でドイツ政局が不気味になってきた メルケル退陣が近づく中、後継者も失脚

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振り返れば、クランプカレンバウアー党首が党幹事長からCDU党首に抜擢されたのは2018年12月。「党幹事長→党首→首相」はメルケル首相が歩んだ出世街道であり、女性であることも相まって「ミニ・メルケル」として次期首相筆頭候補と見なされてきた。当然、2021年の連邦議会選挙でもCDUの看板として戦うと目されていたし、「与党党首と首相が異なる」という異例な構図に関しても、メルケル首相の分身としてスムーズな引継ぎが可能になるという好意的な評価もあった。

しかし、この青写真はわずか1年余りで挫折した。元よりクランプカレンバウアー氏自身の失言(19年6月、ネット上での言論規制を示唆)や地方選挙での連敗で求心力が揺らいでいたところに、今回のチューリンゲン州の事件がとどめを刺した格好である。AfDとCDUが支持した候補が選出されるという事態をクランプカレンバウアー氏が望んでいたわけではないにせよ、党内への掌握力が弱まっていることの証左とされても仕方ない。

クランプカレンバウアー氏が就任した2018年12月以降もCDUの支持率は20%台で低空飛行が続いていたので、今回のチューリンゲン州の事件がなくとも遅かれ早かれ退場したのかもしれない。

メルケル路線に決別しないと低空飛行は続く

いずれにせよCDUの次期首相選びは振り出しに戻った。なお、連邦政府首相にメルケル氏、CDU党首にクランプカレンバウアー氏とする現行体制は直ぐに変わるわけではなく、2021年の総選挙までは続く。また、クランプカレンバウアー氏は昨年7月から兼任している国防相には留任する見込みである。

これから1年半余りかけてCDUは「2021年の総選挙、ポストメルケルとして誰を担いで戦うべきか」という課題と向き合うことになる。SPDが連立解消を申し出ればその時点で総選挙もありうるが、今、選挙に踏み切ってもSPDにとって有利な状況とはいえないため、その可能性は低い。CDUにおける大方の方針が定まったところで、クランプカレンバウアー氏は党首を辞任すると見られる。

現状、その有力な後継者は最大州であるノルトライン・ウェストファーレン州の州首相を務めるラシェット副党首と言われている。中道であるがゆえに支持を得やすいという話だが、そのようなメルケル路線こそが現状を招いたという批判もある。メルケル路線との決別を図るのであれば、より保守色の強いメルツ元院内総務やシュパーン保健相といったメルケル首相の政敵も対抗馬として浮上してくる。

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