トヨタが新たな逆風が吹く中で示した自信 新型肺炎の影響が読み切れない日系大手3社

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新型肺炎の発生源とされる湖北省武漢にホンダは4輪の完成車工場を持つ。武漢の年間生産能力は約60万台で中国全体の約半分を占める一大拠点だ。当初は春節休暇明けの2月3日としていた中国の生産再開は新型肺炎で延期を余儀なくされ、直近では2月17日の週にすると発表。本格的な生産再開はすべての部品が調達できる目途が立ってからになる。

ホンダの場合、世界販売に占める中国の割合が約30%と高い(トヨタは17%)。倉石副社長は「中国は昨年も非常に調子良かったので残念。工場を早く再開させたいところだが、従業員の安全が最優先」と話す。販売比率が高く、伸びしろの大きな中国事業にブレーキがかかる影響は小さくないだろう。一方、アメリカは2019年は全体需要が1.3%縮小したのに対しホンダはSUV(スポーツ多目的車)の販売が健闘し、前年比0.2%増(販売台数は160.8万台)と減少を回避した。

一方、アメリカ市場では日産自動車の苦戦が際立つ。カルロス・ゴーン元会長の社長在任時にインセンティブを大量投下した値引き販売のツケで中古車価格が下落し、ブランド価値も毀損。覚悟の上でインセンティブを絞って収益性を引き上げようとしているが、2019年の米国販売は約1割も減った。市場自体が軟調なだけに、アメリカ市場での回復はかなりの時間を要するだろう。

新型肺炎問題の余波は日本にも

経営再建を進める日産はリストラ費用がかさみ、2020年3月期は売上高10兆6000億円(前期比8.4%減)、営業利益1500億円(同52.9%減)の大幅な減収減益を見込む。そこへ中国に新型肺炎という問題が起きただけに、泣きっ面に蜂ともいえる状況だ。ホンダと同様中国での販売比率は全体の約30%を占める。2019年の販売実績は154万台(前年比1.1%減)とアメリカの134万台を上回るだけに、新型肺炎の影響で中国市場がさらに失速した場合の影響は免れない。

日産は武漢から西に300km離れた襄陽に完成車工場を持ち、中国内のほかの拠点も含めて2月17日以降に順次稼働するとしている。新型肺炎の問題が日系自動車メーカーの業績に及ぼす影響について、「全社的な利益水準が低く、中国以外の稼ぎが乏しい日産が最大になる」(ブルームバーグインテリジェンスの吉田達生シニアアナリスト)との見方もある。

また、中国からの部品調達が難しくなったため、九州にある日産の完成車工場にも影響が出ている。日産は、2月14日、17日に「生産調整を行う」(広報)としているが、同社と取引がある部品会社によると「生産ラインの一時停止」だという。

今回の問題が長引けば、収益の下押し圧力が一段と強まる。そのとき各社の耐久力は、中国市場の依存度の高さやほかの地域での収益状況で大きく違ってくる。2020年度の業績見通しをどう考えるか。足元の状況を見る限り、日系大手3社の中で日産が最も頭を悩ますことになりそうだ。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年10月から東洋経済編集部でニュースや特集の編集を担当。

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