乗客乗員3700人超が海の上で、今もいわば“軟禁”状態にあるダイヤモンド・プリンセス号。香港で下船した乗客が新型コロナウイルスに感染していたことがわかり、延べ336人の乗客が検査を受けた結果、70人が陽性と判明した。
感染率20%、とまで早合点する人はいないだろう。もしこれ以外に感染者がいなければだが、乗客乗員約3700人中の70人なら単純計算で感染率1.8%だ。そもそも感染者と濃厚接触があった、もしくは発熱や咳などの症状のあった、感染可能性の高い人だけを検査している。政府チャーター機による武漢帰国者の感染率とも大差なく、大騒ぎする数字ではない。
問題は、感染の広がりよりも、2週間の軟禁生活そのものが重大な健康被害をもたらしかねないことだ。本題に入る前に、この洋上停留が新型コロナウイルス以上にハイリスクで、世界的にむしろ非難を受けかねない、という話をしたい。
海上軟禁は健康リスクと人権侵害でしかない
メディアによる乗船客への電話取材合戦で、多くの乗客が狭い客室に閉じ込められ、不自由な生活で、ストレスや不安を抱えている実態が伝えられている。常用薬の不足も深刻だ。
実は私も、乗客の娘さんから相談を受けた。高血圧や腎不全の持病を抱えた83歳と80歳の両親が船上にいる。「薬が届くと言われていたけれど、届かなかった。具合が悪いので事務室に連絡をしようとしても、電話がつながらない。具合が悪かったら貼ってくれと言われているエマージェンシーのシールをドアに貼ったが、音沙汰がなく、大変困っている」という。
感染者の中には重症者も1人いると報道されているが、年齢や基礎疾患については不明だ。連日のストレスや不安に満ちた軟禁状態が、病状を急速に悪化させた可能性は否めない。むしろ新型コロナウイルスへの感染はなくても、狭い部屋の中でほぼ1日過ごす生活自体が、大きな健康リスクだ。
栄養の偏りと運動不足、ストレスが、体と心を蝕む。実際、鳥取県中部、新潟県中越沖、能登半島地震、東日本大震災、熊本地震などでは、避難生活により、静脈血栓塞栓症の頻発が報告されている。鬱や睡眠障害を発症する人も多い。
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