“水際”対策、つまり船の入港をストップして感染症の流入を防ぐ手法は、古典的だ。『MRIC』に掲載された海事代理士の関家一樹氏のメルマガによると、船舶検疫は15世紀にペスト対策としてヴェネチアが船舶乗員を離島などに隔離したことに始まる。その長い歴史の中でも、今回の「隔離と船舶検疫は、現状の国際標準から考えてかなり異常な行為」だという。
検疫に対する国際的な解釈は、「21世紀以降においては国際間移動人口の飛躍的な増加を受けて、むしろ検疫を受ける旅行者の人権保護に重点を置くようにシフトしている」と関家氏。
実際、新型コロナウイルス感染者が2人発生した地中海のクルーズ船(コスタ・スメラルダ号)では、イタリアで乗客・乗員6000人超が一時足止めされたものの、乗客は12時間余りで解放されたという。関家氏は、今回の停留は、過剰な検疫に対する警告を定めた国際保険規則32条に「違反している」と断じている。
水際対策という大義名分を振りかざした健康・人権侵害は、政府チャーター機での武漢帰国者にも言える。彼らは陸上でこそあれ、ホテルの狭い部屋に軟禁状態にあることは変わらない。
無意味な「水際対策」をなぜ続けるのか
もっと言えば、空港での水際対策自体、おそらく当初からほとんど意味はなかった。ヒト―ヒト感染が昨年12月中旬から起きていたならば、1カ月以上を経て武漢や湖北省からの入国を止めても仕方がない。とくに、無症状感染や最長12.5日の潜伏期間があるなら、空港での検疫方法はザルそのものだ。自己申告には期待できないし、熱がなければサーモグラフィーは感知しない。症状があっても解熱剤や風邪薬を飲めばいいだけだ。
もはや「頑張って食い止めようとしています」というポーズ、お役所のアリバイ作りでしかない。
【2020年2月10日18時45分追記】初出時、医系技官にかかわる他媒体記事からの引用に不正確な記述がありましたので上記のように修正しました。
国内感染はおそらく、確認されているよりずっと広がっている。湖北省しばり(武漢しばり)のために検査が受けられず、新型コロナウイルス感染者の実際の数を把握できていないだけだ。空港にしても、船での入国にしても、水際対策は潔く諦め、国内感染を前提とした検査・診療態勢の整備へと、速やかにシフトしていく段階にある。
まずはインフルエンザのように、市中の医療機関でも新型コロナウイルスの検査を可能にすべきだ。2月3日に安倍晋三首相が衆議院予算委員会で明言した、簡易検査キットの開発・普及は、基本的には歓迎できる。だが、海外で精度の十分な簡易検査が早々に実用化されたならば、患者目線で考えれば国産にこだわる理由はない。治療薬やワクチンも同じだ。
現在、中国で臨床試験の進んでいる抗HIV薬(カレトラ)やエボラウイルス感染症の治験薬(レムデシビル)で効果が確認された場合、その適応外使用を国としてバックアップし、あるいは特例承認を検討すべきだ。
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