ビットコインという「通貨」の正体 なぜ日銀・黒田総裁は「通貨でない」と発言したのか

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通貨の形を装った、投機用の金融商品

ビットコインは、通貨としては機能しない。通貨の形を装った投機用の金融商品として使われている。だからこそ、取引所に預けるのであり、交換するのではなく、利益確定売りをする人と、投機買いをする人が、やり取りするだけなのだ。

この中で、価格が大幅に上昇を続けたことはどのような意味を持つのか。それは、発行者あるいは初期に保有した人々が(技術的には採掘というメカニズムで、常に誰でも自分で発行できる可能性があることになっているが、実質的には、初期の取得者と考えて良い)価格暴騰の利益を独占しているということだ。

その中で、今から市場に参加して取引をするということは、投機的需要で保有している人々から、その貴重なバブル市場の売買投機ゲームに参加するチケット、つまり、ビットコインというバブルになっている金融資産を奪わないといけない。売りたくない人々から買うわけであるから、それは価格が上がっていく。上がるしかない。

これは、バブルそのものであり、バブルの典型的現象だ。そして、ビットコインは、バブルにおけるもう一つの特徴、バブルのピークあるいは崩壊前に乱高下するという現象にもぴったり当てはまる。しかし、なぜ乱高下するのか。それは、売りが出てきたからである。買いたい意欲一辺倒のところへ、売りたい人々が出てきたということだ。

これは発行者、あるいは初期保有者の出口としてなのかどうかはわからないが、そろそろ潮時だ、と思う人々が存在するということであり、貨幣であるにせよ、単なる金融資産であるにせよ、潮時だと思う人々が出てきて、これまで大幅に上昇するときというのは、バブルの末期であると考えるのが普通である。

派手に盗難が起き(実態はさらに怪しい可能性があるが)、動いているということも、そろそろ抜けるべきだと考える別の人々がいることを示している。

したがって、ビットコインとは、その技術的構造がいかなるものであったとしても、通貨でありながら、投機としてしか意味のないものであり、夢の通貨でも、未来の通貨でもなく、幻想による金融資産であり投機商品なのである。そして、それはビットコインに固有のものではなく、通貨を含むすべての金融資産に置いて、多かれ少なかれ存在する問題である。ただ、ビットコインがもっとも崩壊するための条件がそろっているというだけのことだ。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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