ビットコインという「通貨」の正体 なぜ日銀・黒田総裁は「通貨でない」と発言したのか

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日銀や政府が、これは通貨ではない、といったとき、これは当たり前のことで、刑務所でタバコが貨幣として機能したり、第二次大戦中や終戦直後、コメが通貨の代わりに使われたとき、それらは、もちろん法的には通貨ではないが、使っている人々にとっては通貨なのである。

同じようにして、ビットコインと通貨として受け取る人々がいる世界においては、それは通貨なのであり、ビットコインを通貨として使おうとする人々は、それを通貨として受け入れる人々を探すだけであり、彼らのコミュニティ、ビットコインコミュニティが出来上がり、その中では、ビットコインは通貨中の通貨、通貨そのものである。

「ビットコインコミュニティ」の正体

ここで面白いのは、このコミュニティ=ビットコインコミュニティとは、ビットコインを通貨として使うことだけからできあがっている。いわゆるギーク(昔は「ガリ勉」という意味だったが、いつのまにか「コンピュータオタク」などの意味に転用されているが)が多いとか、特徴があるとしても、それは結果としての現象であって、コミュニティを形作っているのは、ビットコインを通貨として受け入れるという事実だけだ。

これは「国家とは、通貨の発行権を得るための機構である」、という考え方があるが、それと同一の現象となっている。国家とは、経済圏を武力あるいは他の手段を通じて国家という枠組みと重ねることにより、通貨を使うことを強制し、それにより、通貨発行権を所持することのメリットを最大化しようとするものという、国家の捉え方である。

したがって、国家の領土を拡大する戦争とは、物理的な資源や土地、戦略上の要地を獲得するという目的と同時に、内的には、あるいは経済的には、自国通貨の流通範囲を広げ、通貨の流通量、使用量を増やすことにより、通貨を発行することによる利益を増大させることになるのである。

こうなると、物理的に戦争をする必要もないし、国家という範囲を広げる必要もない。通貨を通貨として使わせれば十分なのである。米国経済や金融市場の発展は、米国に軍事力に変わるパワーをもたらしたし、欧州の復活はEUによるものではなく、ユーロによるものだ。パリバショック、リーマンショックでユーロという規模のある強い通貨を使うことのメリットを誰もが強く感じたはずであり、その後、EUはユーロの通貨価値を守ることを最優先とし、短期の景気刺激は放棄し、それにより、経済的にも復活してきたのである。

したがって、ビットコインはビットコインを通貨とする人々のコミュニティに置いては、それは通貨であり、通貨そのものである。

しかし、それは、たとえば、ネットゲームにおけるコインやアイテムと何が違うのか、ということになると、本質的には同じ、ということになる。コインやアイテムも、一定の範囲で一定期間継続してそのコミュニティの中で受け入れられ、またそれをコミュニティメンバーが期待しているのであれば、それは紛れもなく通貨である。

次ページビットコインは通貨らしいのだが・・
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