アジア人差別も始まった新型肺炎の大パニック なぜ国籍・民族と感染症を同一視するのか

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今後の進展の仕方によっては、同じ日本人同士でもこのような差別が行われる可能性があるだろう。中国では自国民から「武漢の住民や滞在者」を切り離し、後者を差別し始める風潮が表れたが、日本でも仮に集団感染が発生すれば、その町や村どころか、市や県の住民を丸ごとカテゴリー分けする事態が想定される。そうして差別的な対応が横行することだろう。

2011年の東日本大震災のときに原発事故により避難した福島県の住民が、避難先で「放射能」のスティグマ(烙印)を押されて差別されたことと同様である。すでにインターネット上では、政府が武漢からのチャーター便で邦人を帰国させることを決定した際、「帰国させるな」「武漢にいろ」などという批判が見られた。

デマやフェイクニュースなどとの化学反応が怖い

このような考え方がデマやフェイクニュースなどと化学反応を起こすと、入店禁止どころか暴力を扇動する最悪の事態を招きかねない。つい先日、私が訪れた居酒屋で50代くらいの会社員が「中国では2万人以上が新型肺炎で死んでいる」とまくし立て、「生物兵器の可能性が高い」と断言していた。

今後、加速度的に増える可能性はあるものの、実際にこの原稿を執筆している2月1日時点における死者は全世界でも300人を超えていない。こういった根拠のない噂で大騒ぎしている人々は少なくないと思われる。

複数の専門家や医師が「コロナパニック」について、冷静になるよう注意を呼びかけ、積極的な情報発信に乗り出している。テレビやネットを見ると、国内で感染者が増える新型肺炎の話題で持ちきりだ。中国内における新型コロナウイルスが原因とみられる肺炎の死者は、2002~2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)での中国本土の死者349人を上回った。

ただ、そもそもこの時期のポピュラーな病気であるインフルエンザの流行においても死者は出ている。厚生労働省によれば直接的な要因のほかにも、例えば持病を患っていたり、体力が低下していたりなどの間接的な要因も含めてインフルエンザの流行によって生じた死亡を推計する「超過死亡概念」で考えると、インフルエンザによる年間死亡者数は、世界で約25万~50万人、日本で約1万人と推計されている。

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にもかかわらず、インフルエンザとなるとワクチンを打っていない人々は意外に多い。つまり、新型コロナウイルスによる新型肺炎については未知なる病気に対する警戒はわかるが、実際上のリスクに見合った怖がり方ではない一種の恐怖症(フォビア)に陥っているのだ。わたしたちは、そもそも多様な不安から逃れられない世界に生きていることを自覚したうえで、「特定の他者」をそれらの原因とみなす安易な解決法に流されない心構えが必要と言えるだろう。

真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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