アジア人差別も始まった新型肺炎の大パニック

なぜ国籍・民族と感染症を同一視するのか

実際にアジア系のレジ係の女性が接客を拒否され、「母国に帰れ」と罵られた光景を見た人からの証言も得ているという(「まるでアジア系全員が保菌者扱い」新型肺炎で人種差別相次ぐ、欧州/1月31日付)。つまり、このようなリアクションが世界各国において、中国人だけではなく「アジア系全体」へと波及し始めているのだ。

イタリアでは、有名な国立音楽学校が「東洋人の学生のレッスンを中止する」と発表。差別を懸念する声が上がった。もちろん、この「東洋人」には、中国人とともに韓国人、日本人も含まれている。かつて120年ほど前に「黄禍論」という白色人種による黄色人種に対する脅威論があったわけだが、それがさながら新型肺炎パニックというまったく別の装いで復活したような格好となっている。

なぜ国籍・民族と感染症を同一視する言動に及ぶのか。その深層にはどのような問題が潜んでいるのか。

「わたしたちはみな不安に襲われている」

社会学者のジグムント・バウマンは、今日のグローバル化が進んだ世界において、「わたしたちはみな不安に襲われている」と主張する。

流動的で予測できない世界、すなわち規制緩和が進み、弾力的(フレキシブル)で、競争的で、特有の不確実性をもつ世界に、わたしたちはみなどっぷり浸かっているが、その一方で、わたしたちの一人一人が、私的な問題として、個々の失敗の結果として、自身の臨機応変の才あるいは機敏さへ挑みかかるものとして、己の不安にさいなまれている。(ジグムント・バウマン『コミュニティ 安全と自由の戦場』奥井智之訳、筑摩書房)

加速度的に変化していくことが強いられる社会環境の下では、「自分の身体や精神」がほかのもの(消費財やコミュニティーなど)よりも「平均余命」があるものに感じられ、「身体の保全」に対する関心が高まると同時に、それらの脅威に対処することが「慰め」になるというのだ。巨大なシステムから生じる「不安の根源」はコントロールできないが、疑わしい「周囲の他者」はコントロールできると考えてしまうのである。

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