「100年前の日本」が今と驚くほど似ている事情

現代日本の問題を大正時代から考察してみた

世の中が安定すると、必ずといっていいほど、庶民の堕落、退廃を指摘する声が大きくなる。元官僚の澤柳政太郎は、現代の青年には遠大なる志が乏しく、大なる野心がない、依頼心のみ強い、こんな意気地のないことでは国家の前途も心細いと『野心論』に書いています。

元外交官、日銀理事の河上謹一も、新卒者の一括採用に当たり、「今時代の学生」は「大会社とか大銀行とかを選ぶ傾向があって、いずれも大樹の下は安全だという思念に付纏(つけまと)わられている」と『実業之日本』で論じています。

逆に、その実業之日本社を創業した増田義一は、時代の変化を無視して過去の価値観を当てはめることは誤りだと言っています。時代の違いを考えないのは、指導者の質低下という問題でも同じです。

「勤勉に見えるように」働いていた

──読書離れも起きています。

東京市長を務めた奥田義人は、業務の細分化で特別に読書をしなくても出世できるようになったが、そうした人はリーダーとして「甚だ物足らぬ感がする」とし、時間のある若いうちにこそ古典などを読み、教養を身に付けるよう勧めています。

おおくら・ゆきひろ 1972年生まれ。新聞社、広告制作会社勤務などを経て、フリーランスのライター。著書に戦前、戦後のマナー、モラルの変遷を描いた『「昔はよかった」と言うけれど』『「衣食足りて礼節を知る」は誤りか』、共編著に『レイラ・ザーナ——クルド人女性国会議員の闘い』。(撮影:梅谷秀司)

ここからわかるように、読書離れは若者に限らない。内容の貧弱なものばかり売れる、と質を問う人もいて、本を作る側の問題でもあるようです。また、明治末期から大正にかけては人格向上の必要性を説く修養書が多数出版され、昨今の自己啓発本ブームに通ずるものがあります。

──働き方に紙幅を割いています。

働き方に関する議論が多かったのです。今の働き方改革でも問題になった、メリハリのない仕事ぶりも以前からです。レジオン・ドヌール勲章を受章した仏文学者の飯田旗郎はそうした仕事ぶりを「虚飾虚礼」とし、「もっとも上役の人達も、追従虚飾の勉強を喜ぶものが無いでもない」と、それを助長する上司の意識にも言及している。

日本人は勤勉と自ら言いますが、上司から勤勉に見えるように働いていたというのが実際です。勤勉に見えるには、長時間会社にいなくてはならない。ダラダラやっているのに人に会えば「どうも忙しくて困る」(笑)。効率の悪い働き方をしているという自覚に乏しい。

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