「100年前の日本」が今と驚くほど似ている事情 現代日本の問題を大正時代から考察してみた

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──そして、100年前から学校はブラック職場だった。

多くの教育関係者が、小学校の教員は学校では休息の時間がなく、授業後も授業案、統計表などの作成で帰宅は夜になると訴えているのには驚きました。こうした声を受け、政財界からも「これでは駄目だ」という意見があったのに変わらなかった。

工場と違って労働時間と成果の関係が見えにくいうえ、「聖職」の語に象徴されるように、先生自身も、そういう仕事だからしょうがないと思っていたようです。ただ、教師の人事にも影響力を持つ、視学という行政官の目を気にして、日没前に帰宅できないという記述もありました。

「オレオレ詐欺」の原形も

──犯罪者も進取の精神を持って、せっせと働いていたようですね。

新しい技術やツールを産業界が採用するように、犯罪を仕事にする人も取り入れています。新聞広告に「無担保信用貸し」と出し、集まった人から身元調査費をせしめ、調査もせずに「調査の結果貸せない」とはがきを送り付ける。

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本人の友人を名乗り、「代わりに金を受け取りに来た」と、本人の家族からだまし取る「なりすまし詐欺」は現代のオレオレ詐欺の原型。このやり方では本人になりすませないが、電報と電報為替の登場で可能になった。電報為替で送金せよとの電報を田舎の家族に打つ。振り込め詐欺と同じです。

──ほかのテーマも含め、問題が解決できていない印象です。

改善されたのは、「物品を粗雑に扱う」くらいですね。

確かに制度面での改善はあるのですが、その新制度の下でも人々は前と同じように考え、行動したりする。例えば、参政権など女性の権利は拡大しましたが、それでも医大の入試で女子受験生の一律減点が続いていた。

政治で制度を変えることはできても、人の意識までは変えられない。変えられるとすれば教育で、100年前も同じような議論がありました。しかし、「道徳教育を強化してきたのにまだモラルの低い人間が多い」という指摘があります。

産業面でも、技術や機械の進歩に働く人間の意識が追いつかないことを嘆く声がありました。じゃあどうするのかというと、教育しかないのかな。今後も、時間はかかっても改善されていくと思いたいですね。

(聞き手 筒井幹雄)

週刊東洋経済編集部
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