東京の「大水害」いつ起きてもおかしくない実状 リスクの高い地域への居住規制する案も浮上

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下流のハード整備といえば、市街地を守る堤防だ。台風19号通過前後の大雨によって、首都圏の河川は氾濫寸前にまで追い込まれた。利根川の堤防は埼玉県久喜市で氾濫危険水位を超え、荒川上流でも流量が堤防の整備計画を上回った場所があった。

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利根川や江戸川では2004年から堤防の幅を広げて浸透や決壊を防ぐ事業が行われている。江戸川の拡幅工事は7割以上が完了している一方で、利根川上流では計画の2パーセント止まり。「用地買収に時間がかかっている。予算との兼ね合いもあり、完成まで何年かかるかはわからない」(利根川上流河川事務所)。地権者との合意に時間がかかっている。

上流ではダム群が流域全体の水位を調節する役目を担う。関東地方整備局の推計では、利根川上流のダム群の貯水によって群馬県伊勢崎市にある基準地点の水位を1メートル低下させる効果があったという。2019年10月に工事が終わったばかりで試験的に貯水を始めていた八ッ場ダムの効果も注目された。

だがダムが水位を下げる効果はダム直下でもっとも大きく、下流に行くほど薄れてしまう。「下流の市街地を流れる河川で実際に水位上昇を抑えた効果は数センチ程度に過ぎなかったのではないか」(ダム問題に詳しい水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之氏)との声も上がる。

遊水池や貯水池も限界に近かった

中流域で雨水を貯め、堤防付近の水位上昇を抑える遊水地や貯水池も限界に近かった。群馬県と栃木県の県境を流れる渡良瀬川が利根川に合流する地点には、日本最大の遊水地である渡良瀬遊水地が広がる。

台風19号の際には、渡良瀬川から利根川に流れ込む雨水を周辺の遊水地と合わせ2.5億トン貯めた。貯水率は100パーセントに達していた。荒川でも、埼玉県のさいたま市と戸田市にまたがる荒川第一調節池で3500万トンを貯水。貯水率は9割に上った。

「下流の水位を低下させるという意味では、中流域の遊水地が果たした役割は大きい」(治水に詳しい立命館大学の高橋学教授)。要因のひとつは貯水量の巨大さだ。利根川水系のダム群は7つ合計で1.45億トンだが、遊水地は計2.5億トンと、1億トン近くも多く貯水したことになる。もうひとつは、下流に近いということ。同じ貯水量の場合、上流のダムよりも下流に近い遊水地の方が下流の水位を押し下げる効果は大きくなる。

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