一風変わった映画がヒットした。
新作映画である。しかし、公式サイトやポスターで大きく取り上げられている「主人公」を演じた俳優は、約四半世紀前に亡くなっている。
なので、新作映画でありながら、その「主人公」が登場しているシーンは、過去の映像のリミックスになっているという、ある意味、実験的なアプローチの作品である。
1位『アナと雪の女王2』、2位『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』に続く3位が、その映画――『男はつらいよ お帰り 寅さん』だ(興行通信社「週間観客動員数TOP10」1月4~10日付)。
「主人公」とはもちろん、車寅次郎(渥美清)である。
プロモーションで「フォロワー層」を開拓
健闘に至った理由として、思い浮かぶのは、質量ともに充実したプロモーションである。
とくにNHK関連が目立った。まず、NHK総合で昨年10月より全5話放映された「少年寅次郎」。車寅次郎の少年時代を描いたドラマで、複雑な家族関係など『男はつらいよ』の基礎情報を、広い層に対して整理する効果があったと思う。
またNHK BSプレミアムでは、元日に『男はつらいよ』過去作3作を一挙放映しただけでなく、大阪を舞台に、桂雀々が車寅次郎を演じる「贋作 男はつらいよ」が今月5日から放映されている。
純然たるプロモーションではないものの、これらの展開は、かつての『男はつらいよ』シリーズに明るくない層に対する入門編として機能、結果として今回の『お帰り 寅さん』への集客に大きく貢献しているはずだ。
ここで考えたいのが、『お帰り 寅さん』の顧客構造である。
もちろん、そのコアをなすのは「リアルタイム層」だ。国民的映画として人気を博していた『男はつらいよ』シリーズを、当時リアルタイムで見ていた60代以上の層である。しかし「リアルタイム層」だけだと、ここまでの広がりにはならなかったのではないか。
先のNHKでの「入門編プロモーション」も奏功した結果、「リアルタイム層」の下の世代、『男はつらいよ』を当時しっかりと追っていなかった40~50代の「フォロワー層」まで吸引できたことが重要だったのではないかと考える。
「フォロワー層」の1人は私(53歳)である。当時、自分の親世代が『男はつらいよ』シリーズを手放しで褒め称えることに、コンサバ性を強く感じ、敬遠していたにもかかわらず、今回は満足した。もう少し具体的に白状すれば、けっこう感動して、感涙までしたのである。
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