アメリカとイランの一触即発状態は解消されず 「最大限の圧力」は効かず、代理戦争は拡大

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ヘンリー・キッシンジャー元国務長官は「イランは国家であるか、大義であるか判断しなければならない」と語っている。1979年のイラン革命以降、初代最高指導者のホメイニ師の指揮の下、イランはアメリカ、イスラエル、そしてサウジアラビアなどに対抗するために、国を越えてシーア派による中東域内への影響力を拡大してきた。

シーア派は世界のイスラム教徒の約1割に過ぎないが、イランでは多数派であり、革命後に世界のシーア派を率いることを狙ってきた。

イランはシーア派の三日月地帯のレバノンとイラクに加え、イエメンなどのシーア派民兵組織を通じてアメリカに対抗することを、中東域内で影響力を拡大する有効な策として推進してきた。レバノンやシリアではヒズボラ、イラクでは人民動員隊(PMF)、イエメンではフーシといったシーア派民兵組織を支援してきた。特に2003年のアメリカのイラク進攻以降はこうした代理戦争が拡大した。

レッドラインはアメリカ人の死

2019年12月末、PMF傘下のカイブ・ヒズボラのロケット弾でアメリカ国籍の請負業者が死亡したことを受け、トランプ政権はカイブ・ヒズボラに空爆し報復。このことから、トランプ大統領にとってのレッドラインはアメリカ人が殺害されることだと見られている。

過去、世界では誤解などの重なりで事態がエスカレートし偶発的に戦争に発展することが多くあった。今後、イランの代理戦争を通じてアメリカ人の死傷者が出た場合には、域内で再び緊張が高まるリスクがある。

トランプ大統領は1月8日の演説で北大西洋条約機構(NATO)が中東情勢により関与するよう要請した。しかし、核開発問題については、イランとアメリカが対立を解消し、軍事同盟であるNATOではなく外交ルートでアプローチしなければ、解決しないとみられている。アメリカは当面、イランの核開発そしてシーア派民兵組織を通じた代理戦争といった問題について解決策を見出すことは困難で、「最大限の圧力」を継続することが見込まれる。アメリカとイランの対立は再び激化しうるし、中東の混乱は続く。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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