アメリカとイランの一触即発状態は解消されず 「最大限の圧力」は効かず、代理戦争は拡大

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今後のリスクについて、考えてみたい。

リスク1:イラン核開発の進展、アメリカは対策を欠く

2018年5月にトランプ政権はイラン核合意(JCPOA)を破棄した。だが、それから1年半以上経過した今でもトランプ政権には中長期的に有効な包括的なイランの核に対する代替政策を欠いている。オバマ政権の政策をひっくり返すことが先行してしまったためだ。

JCPOAではイランに対する制裁緩和と引き換えに、核兵器1個分の核燃料製造に要する期間「ブレークアウトタイム」を延ばすことに合意した。JCPOA合意後、ジョン・ケリー国務長官(当時)はメディアに対しブレークアウトタイムはJCPOA合意前の90日以下から、JCPOA合意後は1年以上確保できたと説明した。

 ハーバード大学のマシュー・バン教授によると、トランプ大統領がJCPOAを破棄した初年度、イランは引き続きJCPOAに順守していたという。だが、その後、JCPOAで合意していたウラン濃縮度の制限をわずかながら超え、ウラン濃縮のための高性能遠心分離機を増設するなど核開発に向けて着実に進展する方向に向かった。

ソレイマニ司令官殺害後、イラン政府はウラン濃縮活動を強化することを発表し、核開発に向けて着実に進みだした。バン教授によるとJCPOAで1年以上確保されていたとするイランのブレークアウトタイムは今や3~9カ月まで短縮されてしまっていると指摘する。

イランが順守していたJCPOAをトランプ政権が破棄したことで、アメリカがイランと核問題について交渉を再開するのは容易ではなくなった。再開のためのイランの要求が高くなることは必至だ。経済制裁緩和だけでなく、イラクのアル・アサド米空軍基地攻撃後にハメネイ師が語ったように中東からアメリカ軍が撤退することまで要望する可能性もある。アメリカ側が核開発以外で懸念するイランの弾道ミサイル計画や中東におけるシーア派民兵組織の問題など、JCPOAに含まれなかった内容までイランとの再交渉に盛り込むことなどは、もはや困難を極める。

シーア派民兵組織を通じた代理戦争は激化

リスク2:「最大限の圧力」戦略はイランの代理戦争を止められない

トランプ大統領は1月8日のホワイトハウス演説で、イランとの協力に前向きな姿勢を見せた一方、経済制裁の強化といった強硬な態度も示した。同月10日にスティーブン・ムニューシン財務長官は鉄鋼、銅、アルミの製造に関わるイランの大手企業や政府高官などに対する新たな経済制裁を発表した。

しかし、トランプ政権が、JCPOAを破棄し経済制裁を強化する過程で、イランは域内で代理戦争を繰り広げ、両国の対立は悪化してきた背景がある。そのため、これまでと同様に経済制裁強化を通じたイランに対する「最大限の圧力」をかける戦略が解決策となるか、大いに疑問が残る。

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