アメリカとイランの一触即発状態は解消されず 「最大限の圧力」は効かず、代理戦争は拡大

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さらにイラン政府は経済面でも国が持ち堪えられないことを理解している。2019年のイランのGDP(国内総生産)成長率はマイナス約9.5%を記録し、約31%の高インフレ(年末値)、約17%の高失業率に直面している(いずれもIMF「世界経済見通し」2019年10月版推定値)。

昨年11月に燃料価格上昇に反発するデモが暴徒化した際には、最高指導者ハメネイ師の指示によりイラン政府が国内各地の抗議者を弾圧して、最大1500人もの死者が出たとの情報もある。戦争勃発は社会不安をさらに高めるリスクがあった。筆者が以前、テヘランやイランの地方都市で出会った若者の多くが親米派であった。アメリカとの全面戦争は現体制に対する若者の不満をますます高めかねない。

一方、トランプ大統領も、2016年の大統領選挙でアメリカが他国の体制変革を推し進めること、そして中東での戦争に関与することに反対を唱えた。政権発足以降、イランのさまざまな挑発行為に報復攻撃する機会はいくらでもあったが、これまで直接、イランを軍事攻撃することはなかった。トランプ大統領にはアメリカ国民が望まない新たな戦争を始める意思がないからだ。

ベンガジの連想から大統領選を意識した

イラン革命防衛隊の精鋭コッズ部隊のソレイマニ司令官殺害に至った背景には特別な事情がある。大晦日にイラク・バグダッドにあるアメリカ大使館をイランが支援するイスラム教シーア派の群衆が襲撃したことについて、当日夜、トランプ大統領は「ベンガジの二の舞とならない」と語った。

ベンガジとは2012年、クリストファー・スティーブンス駐リビア大使が在ベンガジ領事館を訪問中に襲撃され、殺害された事件だ。事件当時の国務長官であったヒラリー・クリントン氏は当時の共和党主導だった議会に呼び出され、同事件の責任を追及されるなど、2016年大統領選後まで共和党の格好の標的となった。

トランプ大統領は今年11月の大統領選挙を意識して、在イラク大使館がベンガジのような惨事に発展することを防ぐために、ソレイマニ司令官を殺害した。だが、その行為が戦争懸念を高めることまで想定していなかったと思われる。アメリカが他国の軍トップを殺害するのは第2次世界大戦以来だ。過去の政権でもソレイマニ司令官殺害の機会はあったものの、その反響を懸念して、見送っていた。

今回、ジーナ・ハスペルCIA(中央情報局)長官は大統領に対し殺害しないほうが殺害後のイランの報復よりも脅威は大きいと助言したとも報道されている。事実であれば、そのような助言も大統領のソレイマニ司令官を殺害する判断を後押ししたのかもしれない。

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