しかし、自動改札機が普及するとだます対象は人ではなく自動改札機という機械になる。そのため「人をだますこと」が前提の単なる詐欺罪では捕捉できず、「電子計算機使用詐欺罪」(刑法第246条の2)で対処することになる。
電子計算機使用詐欺罪は、「人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて」「財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り」「財産上不法の利益を得」ることなどを罰するものである。
自動改札機を使用した不正乗車の電子計算機使用詐欺罪該当性については、やはりその成否について争いがあるが、裁判例では認められたものがある(東京地裁2012(平成24)年6月25日判決・判例タイムス1384号363頁)。
「だました」といえない場合も
今回は一般的なキセル乗車とは異なる不正乗車である。
確かに乗車駅では列車に乗る意思を秘して入場券で駅構内に入場をしている。しかし下車駅では、駅係員に正当な乗車券と偽った乗車券の提示もしておらず、自動改札機に正当な乗車券と偽った乗車券も通していない。力任せの改札突破である。人を誤信させてもいないし、機械に不正な指令も与えず虚偽の情報も送信していない。
そうすると、詐欺罪や電子計算機使用詐欺罪でいう「だました」ということにならない。そのため、鉄道営業法違反の無賃乗車で対応ということになったと思われる(ちなみに、大正時代の古い裁判例で、詐欺罪が成立する場合には鉄道営業法違反の罪は適用しないとしたものがある)。
どちらで処罰されてもよさそうであるが、詐欺罪と鉄道営業法第29条違反の場合とでは罰則に大きな違いがある。
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