青学・原監督「強いチームは指示待ちしない」 2年ぶり王座奪還、名将が作ってきた強い組織

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今の青学陸上競技部は成熟したチームになりつつあると自信を持って言える段階になりました。しかし、ここまで話してきたように、一足飛びで成熟したチームにはなれません。私は組織の進化には4つのステージがあると考えています。

第1のステージが、監督対部員全員という図式の中央集権の命令型です。育成手法は「ティーチング」になります。ビジネスの世界に「コーチング」という自主性を尊重しながら人材を育成していく手法がありますが、組織が未熟な段階では適しているとは思いません。どのように行動すれば目標に到達できるか、部員にはわからないからです。

組織の進化の最終形に入った

だからこそ「ティーチング」なのです。なにもないところに知識を与えていくので、目に見える形で組織は成長していきます。部員の意識が高ければ、成長スピードもかなり速いでしょう。ただ、このステージには限界があります。監督が1から10まで指導していくので、部員が何も考えない人間になってしまう可能性があるからです。監督がいなくなればチームは崩壊します。

第2のステージは、キャプテンや学年長、マネジャーなど数人のスタッフを養成して権限を与えていく指示型です。監督からの指示を部員の代表者として養成したスタッフが部員全員に伝えて動きます。このステージに入ると権限を与えられたスタッフには自覚が生まれて成長していきますが、ほかの部員はまだ積極的に考えようとしないでしょう。

第3のステージは、監督が明確な指示ではなく、方向性だけをスタッフに伝えて、部員と一緒に考えながら進んでいく形です。

私はこのステージ3までを部員たちと一緒に、時間をかけて1つひとつステップアップしてよかったと実感しています。もし、ステージ1、2、3を飛び越えて、いきなり成熟したチームをつくろうとしていたら、青学陸上競技部は自主性と自由を履き違えた組織になっていたと思います。

そしていよいよ、第4のステージです。青学陸上競技部は、組織の進化の最終形であるステージ4に入ったと言えると思います。このステージは、監督はチームのサポーター的な役割を担い、部員全員の自主性とチームの自立を求めていく段階です。もちろんそこには、外部の指導者や内部のマネジャーや私の妻であり、青学陸上競技部の寮母でもある原美穂の「支える力」も必要でした。

『フツーの会社員だった僕が、青山学院大学を箱根駅伝優勝に導いた47の言葉』(アスコム)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

そちらについては『フツーの主婦が、弱かった青山学院大学陸上競技部の寮母になって箱根駅伝で常連校になるまでを支えた39の言葉』をお読みいただくとして、この外と内の「支える力」も巻き込みながら、常に私がいなくても勝てるチームをつくってきました。

これが、世の中にある常勝軍団の姿だと思います。私が考えていた以上に、部員たちが本当に成長してくれました。

監督が常にいなくても、自ら考え、自らを律し、自ら行動するチーム。これがこの文章の冒頭に書いた「学生たち、本当によくやったなぁ」につながるのです。

原 晋 青山学院大学 陸上競技部長距離ブロック監督、地球社会共生学部教授

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はら すすむ / Susumu Hara

1967年、広島県三原市出身。世羅高校、中京大学を経て陸上競技部第1期生として中国電力入社。故障に悩み、5年で競技生活を引退し、1995年に同社でサラリーマンとして再スタート。その後、ビジネスマンとしての能力を開花。陸上と無縁の生活を送っていた2003年、長年低迷していた青山学院大学陸上競技部の監督への就任話が舞い込む。2009年に33年ぶりの箱根駅伝出場を果たす。2015年には青学史上初となる箱根駅伝総合優勝に輝く。ビジネスの経験を生かした「チームづくり」「選手の育成」で陸上界の常識を破り、快進撃を続ける。

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