上場宣言のエアクロ、「アパレル革命」へ新機軸 顧客の「生の声」を分析、データ提供も視野

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さらに、商品に対する利用者の率直な感想を集められる点も、一般的なアパレル企業にはないエアクロの強みである。エアクロではレンタルした衣服を返却するたびに、商品1点1点のデザインや着心地、サイズ感などに関する感想を任意で会員専用サイトで入力してもらう。その内容を基に、会員が好むスタイルをスタイリストがさらに分析し、次のコーディネート提案に役立てている。

アパレル企業にとって、顧客の生の意見は商品の企画・改良を進めるうえで喉から手が出るほどほしいもの。ただ、店頭での対面販売では、販売員への気兼ねもある顧客から本音をつねに引き出すことは難しい。

最近では、大手アパレルが商品開発の過程でインフルエンサー(他のユーザーの意思決定に大きな影響を与える人)らを起用し、生活者目線の意見を取り入れることに注力しているが、顧客ニーズを幅広く拾い切れているわけではない。

ブランドへのデータ提供も検討

一方のエアクロは、自分の嗜好をスタイリストに伝えてより好みに合ったコーディネートを届けてほしいとの思いから、多数の会員の感想が寄せられる。パンツの丈の長さや素材に関するものなど内容は多岐にわたり、中には「この部分はゴムにしたほうが快適」といった具体的な意見まである。対面ではなくオンライン上という気楽さや、エアクロが商品を製造するブランドではない「第三者的な立場」であることも、積極的かつ率直なコメントの入力を促しているようだ。

エアクロは将来的に、これら利用者側の声を集約・分析し、商品企画に生かせるようブランド側にデータを提供する事業の展開も検討中だ。日々多数寄せられる定性的なコメントをリアルタイムでどう集約し、ブランド側にどのようなかたちで提供するかといった詳細は今後詰める。

これまでのアパレル業界はパリコレなどのファッションショーからトレンドをつくり出すなど、商品開発において生産者側の視点が優先されていた。利用者の意見を集約したデータの提供により、顧客のニーズをくみ取った商品の企画・生産につなげることができれば、「(生産者視点だけでなく)消費者と共創するかたちの新しいものづくりが広がっていく」と、天沼社長は期待を寄せる。

2018年には服飾系の教育機関や関係団体と共同で社団法人を立ち上げ、国内初のパーソナルスタイリングの測定試験も2019年に始動させるなど、スタイリストの育成にも注力する。上場を見据えるエアクロは、ベンチャーならではのフットワークの軽さで挑戦を続けることができるか。さらなる成長に向けての勝負はこれからだ。

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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