「やすらぎの刻」認知症の親持つ子ほど刺さる訳 老いも病も死も決して美談では済ませない

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そして、今作から登場したのは、よろめきドラマで一世を風靡した女優、通称「桂木夫人」の大空眞弓。大空には困った癖がある。「話が異様に長い」「万引き常習犯」「虚言癖」。芸能人の葬儀で弔辞を読み、脚光を浴びるのも大好き(こういう芸能人、確かにいる)。

罪悪感なくわが物顔に振る舞う大空は、施設内でも厄介な存在に。それでも刺激に飢えた老人たちは、話題をふりまく人間を歓迎。世間では忘れ去られているが、本人は過去の栄華を忘れられない。女優達のプライドと切ない心情を赤裸々に描く。

個人的には元女優の丘みつ子の半生がぐっときた。女優として生計が成り立たなくなり、知らない人の告別式で泣く、いわゆるサクラの仕事をしていたと話すシーンがあった。香典返しが高額商品で、換金したという。

華やかな世界からこぼれた人の人生もすくいあげる設定に思わず拍手したし、丘自身はサバサバしていて、恨み節や愚痴はない。清々しく今を楽しんでいる役どころ(趣味は人形作り)だ。光のあたる人だけではドラマは成り立たず。そこに倉本聰の優しさと深さをひしひしと感じる。

老いも病も認知症も美化せず如実に

みんながみんな元気で健康で悪口と噂が大好き、そんなホームだったら楽しいけれど、それだけで終わらせないのが「やすらぎ」である。今回は病気や死、認知症についても容赦なく迫っている。

劇中、石坂は前立腺摘出手術を受けることに。そのせいか、被害妄想が強くなり、疑心暗鬼に陥る場面もあった。自分が認知症ではないかと疑う心情の吐露も。石坂は大勢の濃いキャラクターに囲まれ、冷静かつ中立な立場だが、今作では右往左往。主役としての見せ場が多数あり、改めて石坂の魅力を堪能できた気もする。

また、タブー視される「安楽死」も描いている。シリーズ時代劇で人気を博した俳優「大納言」(山本圭)は病気が進行し、治る見込みもなく、食事も口から2か月以上とっていない。痛みはモルヒネで抑える状態に。以前、山本は尊厳死協会に登録する書類を依頼していたことがわかり、医師でもある名倉理事長(名高達男)は安楽死を敢行する。山本には家族がいないため、友人である石坂らで看取るシーンが描かれた。

日本では認められていない安楽死だが、そろそろ「真剣に議論する時機」である。タブーとおそれて忌避されるテーマこそ、ドラマで描く意義がある。ドラマには「自分事として考えさせる」力があるからだ。

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