米国でチューバ奏者が作った金管ラップの凄さ 小学校で休む暇もなく上演されたプログラム

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Deanna Swoboda氏(同氏ホームページより)
クラシック音楽そしてジャズ音楽の分野で、自らの仕事を生み出す「起業家的音楽家」を読者の方々にお見せすることを目指すこの連載。第6回は、チューバとラップミュージックを融合させた女性チューバ奏者でアリゾナ州立大学准教授のディアンナ・スワボーダ(Deanna Swaboda)氏のキャリアを取り上げたい。

金管楽器で奏でるラップ音楽

アメリカ全土の学校で2年間にわたり休む暇もなく上演されることなった”金管ラップ”というのをご存じだろうか?

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このプログラム誕生の背景、そしてチューバだけでなく音楽ビジネスと音楽商品開発の講義も大学で受け持つスワボーダ氏の成功を支えたのは「テスト開発」の規律だった。

テスト開発は、一般的な商品開発に携わる方なら当たり前のことであり、マーケティングや広告業に携わる方にとっても、施策が効果的なのかどうかをテストし、反応を分析して改良を加えていくことは一般的だろう。

しかし、この感覚は音楽家にとっては「音楽でもまったく同じだ!」と感じる人と、「全然ちがう」と感じる人とで分かれる。後者は、「演奏は完璧でなければならない」という意識が強いだけでなく、「仕上げる過程」というものに意味や芸術性を見いださない完璧主義的な音楽家といえる。

スワボーダ氏の歩みは、よいものを作り上げていく過程のすばらしさ、そしてその過程を経て生み出されたものの価値の高さを鮮やかに示す。

金管ラップの解説をする前に、スワボーダ氏の「出発点」を紹介する。

「(アリゾナ州立大学博士課程在籍時)、わたしはチューバを演奏して生計を立てたい、という自分の願いはわかっていて、その実現の術を模索していた。その時期に、自分が小学生を対象に演奏したり、教育したり、楽しませることが好きだと自覚した」

試しに作ってみて(演奏してみて)、結果やオーディエンスの反応を見て、改良や変更を加えてまたテストして……という「テスト開発」(音楽の場合は「練習」)をするには、未完成のものから出発する、どれだけいいと自分は思っていても実際にテストして反応をチェックする、という前提を受け入れなければいけないという点で、自分を縛るような完璧主義とは相容れない。

エゴよりも生み出そうとしているものやオーディエンスのことが自分にとって大事である必要がある。

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