米国でチューバ奏者が作った金管ラップの凄さ 小学校で休む暇もなく上演されたプログラム

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スワボーダ氏が「開発」した金管ラップのプログラム “Brass Rap” は”音楽の歴史、音楽のサイエンス、全部の金管楽器についてのお話をラップでパフォーマンスするというのが織り込まれた30分間のプログラム”というものだ。

その誕生の過程は意外なものだった。

「面白かったのは、商品のデザインや商品のアイデアをひねり出すという観点から見て、わたしはこのプログラムを4年間テスト開発していたということ。最初に着想を得たのは、全校集会で金管四重奏を演奏したときのことだった。アンサンブルの他のメンバーが演奏している間にちょっとラップを披露することをわたしたちは思いついた。実際やってみるとすごく盛り上がって、楽しかった。それから3年間、アイデアを思いついては小学校の教室で披露して試してみるということを繰り返していった」

5分のパフォーマンスをやってみて、小学校3年生のクラスでやったときにどう反応するか実験し、スベるのかウケるのかその都度確かめたという。

Deanna Swoboda - brass rap tuba

こうして丹念に「現場でのチェック」を経てパーツが作り上げられていった Brass Rap はある時ついにある楽器工房を通じて全米の楽器店に周知され、当然のことながらどの学校でも大変な評判を呼び、スワボーダ氏は引っ張りだこで、家を引き払うことになるほど、その後数年間で全米を飛び回ることになった。

音楽家たちにも顧客視点は非常に重要

「よい商品を作る」プロセスのお手本のような実話である。

音楽家たちは、「顧客の反応」を確かめながら「商品=コンサート、録音etc……」を作り上げるという発想をどれほど持っているだろうか?

学ぶことがたくさんあるはずだ。

バジル・クリッツァー ホルン奏者

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Basil Kritzer

アメリカ人の両親を持つ香港生まれ京都育ちのアメリカ人。1歳で来日し、日本の保育園、公立小学校に通う。「お受験」で中高一貫教育の私立校に入り、吹奏楽部に入部した際にホルンに出会う。高校卒業後はドイツ留学。エッセン・フォルクヴァング芸大ホルン科卒業。在学中は極度の腰痛とあがり症に悩み、それを乗り越えるために「アレクサンダー・テクニーク(Alexander Technique)」という欧米の音楽、演劇、ダンスの現場では広く知られ取り入れられている「身体の使い方」のメソッドを学ぶ。日本に帰国後、このメソッドの教師資格を取得。これまでに東京藝大、上海オーケストラアカデミー、大阪音大、昭和音大はじめ各地の教育機関で教えている。現在は沖縄県立芸術大学非常勤講師。尚美ミュージックカレッジ特別講師。著書に『マンガとイラストでよくわかる!音楽演奏と指導のためのアレクサンダー・テクニーク実践編』『バジル先生とココロとカラダの相談室シリーズ』(ともに学研)、『徹底自己肯定楽器練習法』(きゃたりうむ出版)など多数。ブログ:basilkritzer.jp(プロフィール写真:©学研)

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