J:COMが徹底的な「地域密着」で得た独自の地位 ラストワンマイルを握る者ならではの強み

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ケーブルテレビのコミチャンは、運営会社のサービスエリア向けに放送されているため、基本的にエリア外の非加入者は見ることができない。しかし、非加入者でもJ:COMのコミチャンをスマホで視聴可能にしたのが、地域情報アプリ「ど・ろーかる」(17年4月提供開始、Android/iOS対応)だ。

「ど・ろーかる」は、①全国各地に68台配置された24時間ライブカメラの映像を配信、②全国48地域の「デイリーニュース」を放送と同時配信、③各地の花火大会やお祭りなどの特番・ライブを配信する。さらに自治体の広報番組や全国17拠点で放送する対談番組「ご当地人図鑑」のアーカイブ配信なども視聴できる(数字は19年12月現在)。

「特に18年の北海道胆振東部地震の大規模停電時に、アプリによる災害情報の提供が大きなアドバンテージを示せたと思います」(髙平氏)

北海道電力管内のほぼ全域がブラックアウトするという異常事態に際し、J:COMはネットワークの冗長化(※システムや機器の構成要素についてあらかじめ複数用意しておき、異状発生時に肩代わりできるように待機させておくこと)により、有事の際は全国すべてのスタジオから放送できるシステムを活かして、被災した札幌に対して千葉の浦安からスタッフがサポートする形で災害情報を送出した。そして、アプリ「ど・ろーかる」で同時配信することで、被災してテレビが見られない人に対してスマホによる情報提供を可能にした。

さらに19年9月の台風15号、同10月の台風19号においては、同様に上陸前から当該地域でL字放送を開始し、同日早朝から災害特番編成を敷き、定点カメラの映像や自治体からの避難勧告などエリアに密着した情報をテレビとアプリで同時提供し、台風通過後も影響が残る地域の防災・復旧情報を継続して放送・配信した。

加入者との距離の近さ、地域との結びつき

「J:COM Everywhere」というコンセプトのもと、J:COMではほかにも、外出先から玄関の施錠や確認が行える「スマートロック」や、家電の操作・留守の見守りなどが行えるホームIoTサービス「J:COM HOME」、家庭内Wi―Fi環境の最適化を行う「J:COMメッシュWi―Fi」など、業界の一歩先を行く新たなサービスを開発・提供して、加入者満足度の向上を図っている。またテレビ画面を利用した「オンライン診療」サービスも、21年度の商用化を目指している。

(出所)『GALAC』2020年2月号

「オンライン診療は、実は社内ベンチャー制度によって寄せられたアイデアから採用されたものです。加入者の高齢化傾向を反映し、また効率的な医療を促進していくサービスに育てていきたいと考えています」(高橋氏)

ケーブル=有線という物理的な回線によってラストワンマイルを握る情報サービス事業者であるケーブルテレビは、やはり加入者との距離の近さ、あるいは地域との結びつきが強みとなる。J:COMが提供する新しいサービスには、今後も注目しておく必要があろう。

(月刊『GALAC』2020年2月号掲載記事を転載)

鈴木 健司 メディア・ライター/「GALAC」編集長

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すずき けんじ / Kenji Suzuki

1963年生まれ。出版社勤務、ミニコミ誌運営を経てフリーに。2020年9月号から「GALAC」編集長。

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